結論:公立教員の産休中は月給が全額振り込まれる
「産休に入ったら給料はどうなるのか」——この問いに対する答えは、公立教員に限れば明快だ。
産前産後休暇(産休)は「特別休暇(有給)」として扱われるため、 月給は1円も減らずに振り込まれる。 基本給・調整額・地域手当・教職調整額など、給与明細のすべての項目がそのまま支給される。
無給になるのは産休が終わった後の「育児休業(育休)」からだ。 この2つを混同しているケースが非常に多いので、まずここを押さえてほしい。
| 制度 | 期間 | 給料 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 産前産後休暇(産休) | 産前6週+産後8週 | 全額支給 | 国家公務員準拠の特別休暇規定 |
| 育児休業(育休) | 産後8週〜最長3年 | 無給(育休手当金あり) | 育児休業法・共済組合規定 |
産休と育休は「別の制度」——ここを混同しない
産休と育休は名前が似ているが、法的根拠も給与の扱いもまったく異なる。
産前産後休暇(産休)
- 根拠: 労働基準法第65条・各都道府県の教育公務員特例規則
- 期間: 産前6週間(多胎妊娠は14週間)+産後8週間
- 性質: 特別休暇(有給)
- 給料: 通常月と同額が支給される
産前休暇は「予定日から数えた6週前」から取得できる。 実際の出産日が予定日よりずれても、産後8週は必ず確保される仕組みだ。
育児休業(育休)
- 根拠: 育児・介護休業法・地方公務員の育児休業等に関する法律
- 期間: 産後8週の翌日〜子どもが3歳になるまで
- 性質: 無給休業
- 給料: 支給なし。代わりに共済組合から「育児休業手当金」が出る
育休手当金の支給率は以下のとおりだ。
- 育休開始〜180日目: **標準報酬月額の67%**相当
- 181日目以降: **標準報酬月額の50%**相当
つまり、産休の8週間が終わるまでは「フル給料の期間」が続く。 産後8週を過ぎて育休に切り替わったタイミングで、初めて収入が減る。
詳しい育休手当金の計算方法や申請スケジュールは 教員の産休・育休お金完全ガイド にまとめている。
産休中の給料の内訳
公立教員の給料は複数の項目で構成されている。 産休中はこれらすべてが通常どおり支給される。
主な給与項目と産休中の扱い
基本給(給料月額)
号給・経験年数に応じて決まる本体部分。 産休中も変更なしで全額支給される。
教職調整額
基本給の4%相当。 時間外勤務手当の代わりとして全教員に一律支給されるもので、 産休中も継続支給される。
地域手当
勤務地の都市部加算分。 東京23区・政令市・中核市などで支給率が異なる(0〜20%)。 産休中も同率で支給される。
扶養手当・住居手当・通勤手当
扶養手当・住居手当は産休中も継続支給。 通勤手当は実際の通勤がなくなるため、産休開始後は不支給になるケースが多い。 自治体によって扱いが異なるので、人事担当に確認しておくといい。
特殊業務手当・管理職手当
担任・学年主任・部活動顧問手当など職務に連動するものは、 産休中は実際の職務に就いていないため不支給になるのが一般的だ。
支給額のイメージ
例として、経験5年目・基本給約28万円の小学校教員のケースを示す。
| 項目 | 通常月 | 産休中 |
|---|---|---|
| 基本給 | 280,000円 | 280,000円 |
| 教職調整額 | 11,200円 | 11,200円 |
| 地域手当(10%地域) | 29,120円 | 29,120円 |
| 扶養手当 | 6,500円 | 6,500円 |
| 担任手当等 | 3,000円 | 0円 |
| 通勤手当 | 10,000円 | 0円 |
| 合計(概算) | 339,820円 | 326,820円 |
手当の一部を除けば、ほぼ通常月と変わらない水準が維持される。
ボーナス(期末手当・勤勉手当)の扱い
産休中にボーナス支給日が重なった場合、受け取れるのかという疑問がある。
結論から言うと、産休中のボーナスは原則として満額支給される。
在職カウントの仕組み
公立教員のボーナスは「支給基準日(6/1・12/1)時点での在職」と 「基準日前6か月の勤務実績」をもとに算定される。
産休中は「在職」扱いが継続するため、基準日を産休中に迎えても支給対象だ。 また、産前産後休暇の期間は勤務実績算定上も原則「勤務した日数」として扱われる。
育休との違いに注意
一方、育休中は扱いが変わる。
- 期末手当: 育休期間は勤務実績日数を1/2に圧縮して計算
- 勤勉手当: 育休期間の日数分は成績率が下がる形で減額
産休(有給・特別休暇)と育休(無給休業)では、 ボーナスへの影響がまったく異なるので注意が必要だ。
詳細な計算例と注意点は 教員の産休育休中のボーナス(期末手当・勤勉手当)の計算方法 で整理している。
社会保険料・税金の産休中の扱い
「給料が出るということは、社会保険料も引かれるのか」という疑問は多い。 産休中の引かれ方は、育休中と大きく異なる。
共済掛金(健康保険・厚生年金相当)
産前産後休暇中は共済掛金が免除される。
公立学校共済組合では、産休開始月から産休終了月の前月まで、 組合員(本人)負担分と使用者(公費)負担分の両方が免除される仕組みだ。
免除されている期間も年金等の計算上は「掛金を納めた期間」として扱われる。 つまり将来の年金に不利な影響は出ない。
申請は産休開始後に「産前産後休業掛金免除申出書」を所属学校経由で共済組合に提出する。 自動的に免除されるわけではないので、学校の事務職員に早めに確認しよう。
所得税
産休中は給料が全額支給されるため、所得税は通常どおり源泉徴収される。
給料から天引きされる額は通常月と変わらない。 ただし、共済掛金が免除になると課税対象の所得が若干変わるため、 年末調整で精算される場合がある。
住民税
住民税は「前年の所得」に対して翌年課税される仕組みだ。
産休中も給料が出ているため、住民税は引き続き給与天引き(特別徴収)で納付される。 問題が出るのは産休から引き続き育休に入ったときで、 育休中は給料がなくなるため住民税を自分で納付(普通徴収に切り替え)するか、 育休前にまとめて天引きするかの対応が必要になる。
この住民税の切り替え手続きについては 教員の住民税の仕組みと産休・育休中の納付方法 で整理している。
振込スケジュール
「産休に入ったら振込日が変わるのか」という心配は不要だ。
公立教員の給与は通常、各都道府県・政令市の給与条例で支払日が定められている。 月給は産休中も同じ支払日(多くの自治体で毎月17日前後)に振り込まれる。
ただし、産休開始直後の最初の給与については、 月の途中から産休に入った場合の日割り計算が発生しないか確認しておくといい。
特別休暇(有給)扱いのため日割り減額はないが、 前述の担任手当等の手当が翌月振込分から外れるケースがある。
ボーナスの振込日
ボーナスは産休中でも通常の支給日(6月末・12月初旬)に振り込まれる。 支給日に産休中であっても支給対象に変わりはない。
給与明細の見方については 教員の給与明細の見方——全項目を元教員が説明する も参考にしてほしい。
私立教員の場合は「出産手当金」が支給される
ここまでは公立教員(地方公務員)の話だ。 私立学校の教員は社会保険の仕組みが異なるため、別に押さえておく必要がある。
私立教員の産休中の給与
私立教員の雇用条件は学校法人ごとに異なる。 就業規則に「産休中も給与を全額支給」と定めている法人もあれば、 無給としている法人もある。
まず自校の就業規則・育児休業規程を確認することが先決だ。
出産手当金(健康保険から支給)
仮に産休中に給与が出ない場合、または給与が減額される場合は、 健康保険から「出産手当金」が支給される。
出産手当金の計算式
日額 = 直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
支給期間 = 産前42日(多胎は98日) + 産後56日
たとえば標準報酬月額が30万円の場合、 日額は30万円 ÷ 30 × 2/3 = 約6,667円となり、 産前42日+産後56日=98日分で合計約65万円が支給される。
ただし、私立学校共済(私学共済)に加入している法人の場合は、 公立教員と同様に産休中も給与が継続支給される学校が多い。 確認先は加入している共済組合もしくは学校の人事担当だ。
産休前後でやっておく手続き一覧
産休に入る前後で対応が必要な手続きをまとめた。 産後は体調も不安定なため、できるものは産前のうちに済ませておくといい。
産前にやること
1. 産休取得の申請
産前6週前(多胎は14週前)から取得できる。 産休開始日を決めて所属校の管理職・事務に申請する。 自治体によってフォームが異なるので早めに確認しよう。
2. 共済掛金免除申出書の準備
産休開始後に提出が必要な書類だが、 どこに何をいつ提出するかを産前に確認しておくと産後の手間が減る。
3. 出産育児一時金の申請準備
共済組合から支給される出産育児一時金(50万円・2024年現在)の申請書を用意しておく。 直接支払制度を使う場合は病院で手続きが完結するが、 直接支払制度に対応していない医療機関の場合は別途申請が必要だ。
4. 育休申請のタイミング確認
産後8週で育休に移行する場合は、産休中に育休申請書を提出する。 遅くとも産後復帰予定日の1か月前には申請を完了させておくといい。
産後にやること
1. 出産の報告と産後休暇開始日の確定
実際の出産日を学校・教育委員会に報告し、産後8週の終了日を確定させる。
2. 共済掛金免除申出書の提出
出産後、産後休暇開始を確認する書類(出生証明書等)とあわせて提出する。
3. 出産育児一時金の申請
出産後2年以内に申請が必要。直接支払制度を使っていない場合は早めに対応しよう。
4. 扶養追加(配偶者が要対応)
配偶者が共済組合の扶養に子どもを追加する場合は出生後30日以内の手続きが原則だ。
5. 育休申請
産休終了後に育休を続けて取る場合は、産休中に申請を済ませておく。 育休手当金は育休開始から原則2か月後に初回振込となるため、 家計のキャッシュフロー計画を立てておくことが重要だ。
育休復帰後の給与変化については 育休復帰後の給与はどう変わるか——標準報酬月額の改定と時短勤務の影響 で整理している。
FAQ
Q1. 産休中に副業・アルバイトをしてもいいか
公立教員は地方公務員法第38条により、産休中であっても副業は原則禁止だ。 産休中は有給の特別休暇中であり、職員の身分が継続しているためだ。 ただし、許可制の範囲内で認められる副業(執筆・講演など)は例外になり得る。 具体的なケースは任命権者(教育委員会)に確認すること。
Q2. 流産・死産の場合、産休は取れるか
取れる。 妊娠12週(84日)以降の流産・死産の場合、産後相当の休暇が認められるのが一般的だ。 妊娠4か月(85日)以上での死産・流産は産後8週間相当の休暇の対象となる自治体が多い。 詳細は任命権者の規則を確認してほしい。 悲しい状況の中での手続きになるが、権利として確認しておく価値はある。
Q3. 切迫早産で産前6週より早く休んだ場合は給料はどうなるか
切迫早産などで産前6週より前に休む場合は、産休の適用外となる。 この期間は「病気休暇」扱いとなるのが一般的で、 公立教員の場合は90日間(自治体によって異なる)まで有給の病気休暇が認められる。 病気休暇の期間も給料は支給されるため、実質的な収入減は発生しにくい。 病気休暇終了後も産前6週に達していない場合は、 「傷病休暇」等に移行する可能性があるため、人事担当に相談すること。
Q4. 産休中は年次有給休暇が消化されるか
消化されない。 産休は特別休暇であり、年次有給休暇とは別枠で管理される。 産休中に年次有給休暇の残日数が減ることはない。
Q5. 産休中に昇給・定期昇格は行われるか
行われる。 4月1日の定期昇給の基準日に産休中であっても、在職扱いが継続しているため昇給の対象となる。 号給の加算は通常どおり翌年度以降の基本給に反映される。
Q6. 産休中に税扶養(配偶者控除)は使えるか
産休中も給料が全額支給されるため、年収はほぼ変わらない。 配偶者控除・配偶者特別控除の適用可否は年収ベースで判定されるため、 通常年と同じ年収であれば通常と同じ扱いになる。 育休に移行して収入が大幅に下がった年は適用対象になる可能性があるため、 年末調整・確定申告で確認しよう。
Q7. 産休中の源泉徴収票はどうなるか
産休中も給与が支払われているため、年末調整は通常どおり行われる。 在職中なら学校経由で処理される。 育休中に年を越した場合、給与が少額にとどまるため源泉徴収票に記載される 支払金額が通常年より大幅に少なくなることがある。
まとめ
公立教員の産休(産前産後休暇)は特別休暇(有給)であり、 月給はそのまま全額振り込まれる。 無給になるのは産後8週を過ぎた育休からだ。
重要ポイントを再整理する。
- 産休中: 月給全額支給 / 共済掛金免除 / ボーナス満額
- 育休中: 月給なし / 育休手当金(67%→50%) / ボーナス減額
- 私立教員: 就業規則次第(健康保険から出産手当金67%が基本)
- 産前に確認すること: 共済掛金免除申請・育休申請のタイミング・住民税の切り替え
産休・育休期間のお金の全体像は 教員の産休・育休お金完全ガイド にまとめているので、こちらも合わせて確認してほしい。
免責事項
本記事は公立学校共済組合・協会けんぽ等の公開情報をもとに執筆した情報提供を目的とするものであり、 個別の給与・手当支給額・申請手続きの正確性を保証するものではない。 産休・育休に関する給与・手当の扱いは都道府県・政令市ごとの給与条例・共済規程・ 学校法人の就業規則によって異なる場合がある。 具体的な支給額・手続きについては所属する共済組合・学校の人事担当・教育委員会に直接確認すること。