育休中、給与が止まって「お金の不安」が頭をよぎる人は多い。 でも、見落としがちな制度がある。

育休中は保険料が全額免除される。

本人分だけでなく、勤務先(学校側)の負担分もゼロになる。 つまり、年間で数十万円が「払わずに済む」状態になる。 しかも将来の年金額は、保険料を払い続けているのと同じ扱いになる。

この記事では、公立教員(地方公務員共済)と私立教員(健康保険+厚生年金)に分けて、免除の仕組み・申請手続き・月給別の免除シミュレーションを整理する。

関連ピラー:「教員の産休・育休マネーガイド」に育休中のお金の全体像をまとめている。あわせて確認してほしい。


まず結論を3点

1. 育休中の保険料は全額免除 公立は地共済掛金(短期・長期・退職等年金)が、私立は健康保険・厚生年金保険料が、本人分・勤務先分ともにゼロになる。

2. 将来の年金は減らない 免除期間も「保険料納付済み」として扱われる。 標準報酬月額も育休前のまま維持されるため、将来受け取る年金額への影響はほぼない。

3. 申請は勤務先経由が基本 自分で窓口に行く必要はなく、育休開始時に学校に伝えれば手続きが動く。 ただし、申出書の提出タイミングを意識しておくと漏れが防げる。


公立教員の免除制度——地方公務員共済組合の掛金が全額ゼロに

公立教員が加入するのは「地方公務員共済組合」、教員の場合は「公立学校共済組合」だ。 民間の社会保険(健康保険・厚生年金)ではなく、地方公務員等共済組合法に基づいた独自制度が適用される。

免除される掛金の種類

地共済の掛金は大きく3種類ある。

短期給付掛金(健康保険に相当) 病気・ケガ・出産時の給付に使われる掛金。 2026年度の組合員負担率は標準報酬月額の約4.8%(支部・年度により若干異なる)。

長期給付掛金(厚生年金保険料に相当) 将来の年金に直結する掛金。 厚生年金保険料と一体で運営されており、組合員負担は標準報酬月額の9.15%。

退職等年金給付掛金 公務員独自の年金制度(職域加算に相当)の掛金。 組合員負担率は標準報酬月額の約0.75%。

この3種類すべてが、育休中は全額免除になる。

免除期間

免除が適用される期間は以下の通り。

  • 開始: 育児休業を開始した日の属する月
  • 終了: 育児休業が終了する日の翌日の属する月の前月

たとえば4月1日から育休を取得して翌年3月31日まで取得した場合、4月分〜3月分(12か月分)が免除される。

なお、産前産後休業中も掛金免除の対象になっている。 産前6週(多胎の場合は14週)・産後8週の期間も本人申出により免除されるため、育休に入る前から免除が始まるイメージだ。

産休期間のボーナス・手当については「教員の産休中のボーナスはどうなる?」で詳しく解説している。

介護掛金について

40歳以上65歳未満の組合員は、短期掛金に加えて介護掛金も控除される。 2026年度の組合員負担率は標準報酬月額の約0.79%。 育休中はこちらも免除対象になる。


私立教員の免除制度——健康保険・厚生年金が育休中ゼロになる

私立学校の教員が加入するのは「私学事業団(日本私立学校振興・共済事業団)」か、学校独自の健保組合、あるいは全国健康保険協会(協会けんぽ)だ。 厚生年金保険は公立と同じく社会保険として適用される。

免除の根拠法は健康保険法第159条厚生年金保険法第81条の2。 公立教員とは根拠条文が異なるが、実質的な仕組みは同じだ。

2022年10月の法改正——14日以上取得で月額免除

改正前は「月末時点で育休中であること」が月額保険料免除の条件だった。 これが2022年10月から変わった。

改正後のルール: 育休開始日が含まれる月に、育休を14日以上取得していれば、その月の月額保険料が免除される。

この改正は特に「短期育休を取得する男性教員」に恩恵が大きい。 月末をまたがなくても、同月内に14日以上育休を取ればその月は免除になる。

賞与の保険料免除: 賞与については「1か月を超える育休取得」が条件になっている。 月をまたぐ長期育休の場合に賞与からの控除もゼロになる。

免除の範囲

健康保険・厚生年金ともに、本人負担分と事業主(勤務校)負担分の両方が免除される。 育休中は「雇用関係は維持されているが保険料徴収は止まる」状態だ。


月給別・年間免除額シミュレーション

2026年度の掛金率をベースに計算した。 公立教員(公立学校共済組合)と私立教員(協会けんぽ+厚生年金)の2パターンで示す。

前提条件

  • 計算対象: 組合員(本人)負担分のみ
  • 介護掛金は40歳以上を想定して含める
  • 公立学校共済組合 2026年度掛金率を使用
    • 短期掛金率: 4.801%
    • 介護掛金率: 0.788%
    • 長期(厚生年金)保険料率: 9.15%
    • 退職等年金掛金率: 0.75%
  • 協会けんぽ 2026年度(熊本県)
    • 健康保険料率(医療分): 9.90% → 本人負担4.95%
    • 介護保険料率: 1.62% → 本人負担0.81%
    • 厚生年金保険料率: 18.3% → 本人負担9.15%

シミュレーション表(月12か月間育休取得の場合)

公立教員のケース

項目 月給35万円 月給40万円
短期掛金(月額免除) 16,804円 19,204円
介護掛金(月額免除) 2,758円 3,152円
長期掛金・厚生年金(月額免除) 32,025円 36,600円
退職等年金掛金(月額免除) 2,625円 3,000円
月合計免除額 54,212円 61,956円
年間(12か月)免除額 約650,544円 約743,472円

私立教員のケース(協会けんぽ+厚生年金)

項目 月給35万円 月給40万円
健康保険料(本人負担分) 17,325円 19,800円
介護保険料(本人負担分) 2,835円 3,240円
厚生年金保険料(本人負担分) 32,025円 36,600円
月合計免除額 52,185円 59,640円
年間(12か月)免除額 約626,220円 約715,680円

公立・私立いずれも、月給35万円なら年間60万円超、月給40万円なら年間70万円超の保険料が免除される計算になる。

さらに勤務先(学校側)の負担分も同額ゼロになるため、実質的な免除効果は本人分の約2倍だ。


申請手続きの流れ

公立教員——共済組合への申出(勤務先経由)

公立教員の場合、手続きは基本的に勤務校の事務担当者が代行する。

流れ:

  1. 育休取得の意思を管理職・事務担当者に伝える
  2. 所属の共済組合に提出する「育児休業掛金免除申出書」を事務担当者が準備
  3. 組合員(本人)が署名・押印
  4. 事務担当者が共済組合に提出
  5. 翌月給与から掛金が控除されなくなる

産休と育休の切れ目でも手続きは通常まとめて処理される。 ただし、育休の延長(1歳→1歳6か月→2歳)のたびに更新手続きが必要になるケースがあるため、延長が発生したら事務担当者に確認するのが確実だ。

申請先: 直接の窓口は勤務先の事務室。 各都道府県の公立学校共済組合支部が最終的な処理先になる。

私立教員——育児休業等取得者申出書の提出

私立教員の場合、事業主(学校法人)が「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構または健保組合に提出する。

流れ:

  1. 育休取得の意思を人事・総務担当者に伝える
  2. 「育児休業等取得者申出書」を事業主が作成
  3. 日本年金機構(厚生年金)・加入健保組合(健康保険)それぞれに提出
  4. 申出の翌月以降の保険料が免除に切り替わる

育休開始月に遡及して免除されるよう、速やかに申出を行うことが重要だ。 万が一申出が遅れると、翌月以降の適用になることがある。

延長時の再申出: 育休期間を延長する場合は延長分の再申出が必要。 延長前に事前に確認しておくと手続きの漏れを防げる。


将来の年金への影響——免除でも年金は減らない

「保険料を払っていない期間は年金が減るのでは」と心配する声をよく聞く。 結論を先に言えば、育休中の免除期間は年金額の計算に不利なく扱われる

「保険料納付済み期間」として扱われる仕組み

厚生年金保険の年金額は、被保険者期間に受け取った標準報酬月額の平均値をもとに計算される。 育休中の免除期間は「実際に保険料を払った期間」と同等に扱われるため、受給資格期間にも算入されるし、年金額の計算にも含まれる。

つまり「育休を取っても取らなくても、老後の年金はほぼ変わらない」。

標準報酬月額はキープされる

免除期間中、標準報酬月額は育休前の水準で固定される。 産後に時短勤務に戻ったとき、標準報酬が下がることがあるが、それは育休中とは別の問題だ。 時短復帰後の社会保険については「産前産後休業終了時改定」「育児休業等終了時改定」の仕組みを別途確認してほしい。

公務員の退職等年金給付はどうなる?

退職等年金給付の掛金も育休中は免除されるが、給付の計算上は「加入期間あり」として扱われる。 将来の退職等年金給付額に不利が生じることはない。


育児休業給付金との関係

「給与が止まっているのに、保険料も免除されるなら給付金だけ受け取れるのか」という疑問もよく出る。

答えは**「はい、両立できる」**。

育児休業給付金(雇用保険)と保険料免除制度は、別々の制度だ。 受給しながら保険料免除を受けることに問題はない。

育休開始から180日間は賃金の67%相当、181日目以降は50%相当の給付を受けながら、保険料もゼロが続く。 育休中の実質的な手取りがどのくらいになるかは、「教員の育児休業給付金の計算方法」で詳しく確認してほしい。


よくある疑問

Q. 育休を分割取得した場合は? 2022年の育児・介護休業法改正で、育休の分割取得(2回まで)が可能になった。 分割取得の各回ごとに免除申出が必要になるケースがあるため、事務担当者に都度確認すること。

Q. 保険料免除中に病院に行った場合、保険証は使える? 使える。 育休中も健康保険の被保険者資格は維持されており、保険証はそのまま有効だ。 保険料の免除はあくまで「徴収を止める」措置であり、保険の資格を失うものではない。

Q. 育休を途中で切り上げて職場復帰した場合は? 復帰した月の翌月から保険料の徴収が再開される。 育休終了の届出を速やかに提出すれば問題ない。


育休後の保険・資産形成も早めに動く

保険料免除のおかげで、育休中の家計ダメージは「給付金がある分と免除がある分」で思ったより抑えられる。

ただし、育休明けに時短復帰すると標準報酬月額が下がる。 生命保険・医療保険の見直しタイミングとして、育休中〜復帰直後が実は最適だ。

「教員に民間の医療保険は本当に必要か?」については「教員に医療保険は必要か」で保障内容の重複チェックを含めて整理している。

また、免除で浮いたキャッシュフローをそのまま流せる資産形成の仕組みを作るなら、育休明けが絶好のタイミングだ。 「30代教員の資産形成ロードマップ」では、教員が取り組みやすい順番でNISAiDeCoへの入り方を解説している。


まとめ

区分 免除対象の掛金・保険料 免除期間
公立教員 短期掛金・介護掛金・長期(厚生年金)掛金・退職等年金掛金 育休開始月〜終了月の前月
私立教員 健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料 育休開始月〜終了月の前月

育休中の保険料免除は「申請すれば自動的に全額ゼロになる」制度だ。 手続きは基本的に勤務先経由で完結するため、自分で年金機構に出向く必要はない。

年間60〜70万円以上が免除されながら、将来の年金にも影響しない。 育休取得を迷っている理由が「お金の不安」なら、まずこの数字を確認してほしい。


次の1手

育休中のお金の全体像を把握したい場合は、まずピラー記事を確認してほしい。


本記事の保険料率は2026年度時点の情報をもとにしています。掛金率・保険料率は毎年度改定されるため、最新の情報は加入している共済組合または日本年金機構にご確認ください。