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結論:夏期講習・塾講師は「許可申請が通れば合法」
公立教員が夏休みに塾の夏期講習や家庭教師の仕事をすることは、原則として禁止されていない。 ただし「無許可でやれる」ということでもない。
正確に言うと、以下の2本の法律を理解して許可申請を出せば、ほぼ通る。
- 教育公務員特例法(教特法)17条 — 「教育に関する他の職」への兼職を認める根拠
- 地方公務員法(地公法)38条 — 任命権者の許可があれば報酬付きの兼業が可能
月収の目安は40〜60時間の稼働で5〜8万円。 時給1,500〜3,000円の塾で週5〜8コマ入れば、夏休みの2ヶ月でそのくらいになる。
確定申告が必要になるのは年間所得が20万円を超えたとき。 夏だけ集中して稼ぐ場合、この20万円ラインを意識しておく必要がある。
この記事では「法的根拠→許可申請の実務→月収シミュレーション→確定申告」の順で書いていく。
教特法17条と地公法38条の関係
「公務員は副業禁止」というのは正確ではない。 禁止されているのは「任命権者の許可なしに営利活動をすること」だ。
2本の条文の役割を分けて理解しておくと、許可申請がスムーズになる。
地方公務員法38条(すべての公立教員に適用)
条文の趣旨は「任命権者の許可なく、報酬を受けて事業・事務に従事してはならない」というもの。 裏返せば「許可を得れば報酬付きの兼業ができる」ということでもある。
申請先は「所属校長→教育委員会(任命権者)」の順。 最終的な許可・不許可の判断を下すのは教育委員会だが、 まず校長に相談してから書類を出すのが実務上の流れになっている。
教育公務員特例法17条(教員だけに認められた特例)
こちらは一般の地方公務員にはない、教員専用の規定。 「教育に関する他の職を兼ねること」については、本務に支障がないと任命権者が認めれば 給与を受けながら兼職できる、という内容だ。
塾講師・夏期講習の講師・家庭教師は、いずれも「教育に関する職」に該当する。 つまり地公法38条よりも教特法17条の方が「通りやすい根拠」になる。
申請書に「教育公務員特例法第17条に基づく兼職の許可を申請します」と書くと、 審査する教育委員会にとっても判断しやすくなる。
国立学校の教員は国家公務員法が適用
国立の附属学校など国家公務員身分の教員は、地公法38条ではなく国家公務員法103条・104条が適用される。 趣旨は同じで「許可制」だが、申請先と書式が異なるため所属機関に確認すること。
私立学校の教員は法律上の制約はないが、 就業規則や雇用契約で兼業禁止・届出制を定めているケースが多い。
許可申請が通りやすい仕事の特徴
すべての兼業申請が通るわけではない。 許可が下りやすい仕事には共通した特徴がある。
1. 「教育に関する職」であること
塾講師・夏期講習・家庭教師・オンライン授業などは、教特法17条の対象になる。 これが一番大きい。一般的な労務提供(飲食バイト・コンビニなど)との差がここにある。
2. 本務への支障がないこと
勤務時間外(夏休み期間中・週末など)に限定されていること。 夏期講習であれば「8月1日〜31日の期間限定」と明示するのが有効。
3. 使用者との雇用契約でなく「講師契約」であること
「バイト」と書いてしまうと審査が厳しくなることがある。 実態が時給制のアルバイトでも、申請書には「業務委託による講師業務」として記載する方が通りやすい。
4. 報酬が社会通念上の範囲であること
「教員が本業を持ちながら片手間でやれる規模」であることが求められる。 月8万円以内が一つの目安として使われることが多いが、 自治体によって上限感は違う。事前に校長に確認しておくとよい。
5. 信用失墜のおそれがないこと
地公法33条の「信用失墜行為禁止」に抵触しない内容であること。 教育機関での正規の講師業務であれば、この条項は問題にならない。
夏期講習・塾講師の月収シミュレーション
時給の幅は塾の規模・科目・担当形式によって大きく変わる。 集団指導と個別指導でも差がある。
集団指導の場合
| 形式 | 時給目安 | 月40時間 | 月60時間 |
|---|---|---|---|
| 大手予備校・塾(集団) | 2,000〜3,000円 | 8〜12万円 | 12〜18万円 |
| 中規模塾(集団) | 1,800〜2,500円 | 7.2〜10万円 | 10.8〜15万円 |
| 個人塾・地域塾 | 1,500〜2,000円 | 6〜8万円 | 9〜12万円 |
個別指導の場合
| 形式 | 時給目安 | 月40時間 | 月60時間 |
|---|---|---|---|
| 個別指導塾(対面) | 1,500〜2,500円 | 6〜10万円 | 9〜15万円 |
| オンライン家庭教師 | 1,500〜2,000円 | 6〜8万円 | 9〜12万円 |
現実的な稼働ラインは月40〜60時間、5〜8万円
夏期講習は1コマ90分が多い。 1日2コマ×週5日=週10コマ、1ヶ月で40コマ=60時間が上限に近い。
ただし本業の教員として8月中も研修・会議・部活動指導が入る場合は、 実際には週3〜4コマ程度が現実的なラインだ。 月20〜30コマ=30〜45時間、収入は4.5〜9万円の範囲に収まることが多い。
年間20万円ラインとの関係
時給2,000円×40時間=8万円。 夏だけに絞ると年間8万円で20万円は超えない。 ただし春期講習・冬期講習と合わせると、年間20万円を超えるケースが出てくる。
「夏だけのつもりが春・冬も頼まれた」というパターンで超えることが多い。 シーズンまたぎで稼ぐなら確定申告の準備をしておく方が安全だ。
許可申請書の書き方(実物に近い項目)
申請書の書式は自治体・学校によって異なるが、記載すべき項目はほぼ共通している。 以下が実際の申請書に近い構成だ。
記載項目と書き方の例
① 申請根拠条文 「教育公務員特例法第17条第1項」または「地方公務員法第38条第1項」と明記する。 塾講師・家庭教師であれば教特法17条を根拠にするのが有利。
② 兼職・兼業の内容 「○○学習塾における夏期講習の講師業務(科目:数学、学年:中学3年生)」 のように、具体的に書く。 「塾でバイト」ではなく「業務委託契約に基づく講師業務」という表現の方が通りやすい。
③ 期間・勤務日時 「2026年8月1日〜2026年8月31日」のように期間を区切る。 週あたりの稼働コマ数も記載しておくと、審査側が本務への支障を判断しやすくなる。 例:「1日2コマ(1コマ90分)、週3日程度」
④ 報酬の形態・金額 時給制か固定制かを明記する。 「時給1,800円、月収見込み5〜6万円程度」のように書く。 見込みで書けばよく、厳密な確定額でなくてかまわない。
⑤ 雇用主・委託先の情報 塾の名称・代表者名・所在地・電話番号。 申請後に教育委員会が確認の連絡を入れることもある。
⑥ 本務への支障がない旨の説明 「夏季休業中の勤務時間外に行うため、本務に支障はありません」 という文言を1文入れるだけで、審査のポイントを抑えられる。
申請タイミング
遅くても活動開始の2〜3週間前には校長に相談しておく。 書類が教育委員会に回って返答が来るまで1〜2週間かかることが多い。 7月末から夏期講習を始めたいなら、7月上旬には相談を始めるのが現実的なスケジュールだ。
申請書の書き方についてより詳しくは、教員の副業許可申請書の書き方にまとめている。
確定申告ライン(年20万円超・住民税普通徴収)
いつ確定申告が必要になるか
副業の所得(収入から経費を引いたもの)が年間20万円を超えた場合、翌年2〜3月の確定申告が義務になる。
「所得」と「収入」は違う。 時給2,000円×月40時間=8万円の収入があっても、 交通費・テキスト代・通信費などで2万円の経費があれば所得は6万円。 夏だけなら年間6万円で申告不要の範囲に収まる。
| パターン | 月収 | 年間収入 | 経費(目安) | 年間所得 | 確定申告 |
|---|---|---|---|---|---|
| 夏だけ40時間/2,000円 | 8万円 | 8万円 | 1万円 | 7万円 | 不要 |
| 夏だけ60時間/2,000円 | 12万円 | 12万円 | 1.5万円 | 10.5万円 | 不要 |
| 夏+冬 合計80時間/2,000円 | — | 16万円 | 2万円 | 14万円 | 不要 |
| 通年(月20時間/2,000円) | 4万円 | 48万円 | 5万円 | 43万円 | 必要 |
| 夏+春+冬 合計110時間/2,000円 | — | 22万円 | 2.5万円 | 19.5万円 | 不要(ギリギリ) |
住民税の「普通徴収」に切り替える
確定申告が不要な年でも、副業収入があれば住民税の申告は原則必要だ。 申告をしないと、副業分の住民税が職場経由で引かれる「特別徴収」のままになり、 給与担当者が不審に思って副業が発覚する経路が生まれる。
確定申告書の「住民税・事業税に関する事項」の欄で「自分で納付(普通徴収)」を選ぶと、 副業分の住民税は自宅に納付書が届く形になり、職場には通知されない。
副業収入が20万円以下で確定申告不要の場合でも、 住民税申告として各市区町村の税務窓口に申告する方法がある。 このときも「普通徴収」にチェックを入れること。
確定申告の実務全般は教員の副業確定申告で詳しくまとめている。 バレ防止の観点からは住民税の普通徴収切り替え方法も合わせて読んでおくといい。
元小学校教員視点のリアル
同僚だった教員の中にも、夏休みを使って塾講師や家庭教師をしていた人は何人かいた。
多くは「夏だけ」「個別指導塾で週2〜3コマ」という形。 年間20万円に引っかからない規模に抑えながら、夏休みの生活費の足しにするイメージだった。
許可申請については、「校長に相談したらすんなり通った」という人と、 「書き直しを2回求められた」という人がいた。 後者に聞くと、申請書に「時給制アルバイト」と書いてしまったのが原因だったらしい。 「業務委託による講師業務」に書き換えてもう一度出したら通ったとのこと。
申請書の言葉遣いひとつで印象が変わる、というのは申請を経験した人の共通した感想だ。
「なぜ許可を取ってまで塾講師をするのか」という疑問を持つ人もいるかもしれない。 実際、無許可でやっている教員がゼロではないのは事実だ。 ただし発覚したときの処分リスクを考えると、申請を出して許可を取る方が圧倒的に安全だ。 許可が下りた状態で稼ぐ5〜8万円は、何の後ろめたさもない収入になる。
夏休みの副業として「塾講師」を選ぶ教員が多いのは、 「自分のスキルをそのまま使える」という点が大きい。 他の副業に比べてスタートのハードルが低く、塾側も現役教員を歓迎することが多い。
よくある質問(FAQ)
Q1. 夏期講習だけなら許可申請はいらないのでは?
必要だ。 「期間限定」であっても「報酬を得て事務に従事する」行為は地公法38条の対象になる。 1日だけ・1コマだけであっても、報酬が発生するなら申請が原則必要。 「バレなければいい」という考え方は、処分リスクを無許可のまま抱えることになる。
Q2. 夏休みは勤務外の日が多いが、それでも許可が必要か?
必要だ。 「勤務時間外かどうか」は許可申請の有無を左右しない。 あくまで「報酬付きの兼業をするかどうか」が基準になる。
Q3. 家庭教師と塾講師、申請上の扱いは違うか?
どちらも「教育に関する職」として教特法17条の対象になる。 申請手続き上の扱いはほぼ同じ。 ただし家庭教師の場合、直接契約(個人間)でも申請は必要なので注意。
Q4. オンライン家庭教師プラットフォーム(マナリンクなど)経由でも申請は必要か?
必要だ。 プラットフォーム経由かどうかは申請要否に関係しない。 報酬が発生する教育活動であれば、形式に関わらず許可申請が必要。 オンライン家庭教師の始め方についてはオンライン家庭教師の副業で詳しく書いている。
Q5. 申請して却下された場合はどうなるか?
却下されたなら、その活動はできない。 理由を確認して「本務への支障がない点」「教育的意義」をより明確に書き直して再申請する、 という手順を踏むのが現実的だ。 黙って始めることは絶対に避けること。
Q6. 確定申告は自分でできるか?
収入が塾講師の報酬だけ(雑所得)なら、e-Taxでの申告は難しくない。 源泉徴収票か支払調書を塾からもらっておき、 経費(交通費・書籍代など)の領収書を保管しておけば、2〜3時間あれば完了できる。
まとめ
公立教員の夏期講習・塾講師バイトは、教特法17条と地公法38条を正しく使えば合法的にできる。
ポイントをまとめると次のとおりだ。
- 申請根拠は「教育公務員特例法第17条」を使う
- 申請書には「業務委託による講師業務」と書く(「バイト」「アルバイト」という表現は避ける)
- 期間・コマ数・報酬を具体的に書くと審査がスムーズになる
- 月40〜60時間の稼働で5〜8万円が現実的な月収レンジ
- 夏だけなら年間20万円以下に収まることが多いが、春・冬と合わせると超えることがある
- 確定申告が必要になる年は「住民税を普通徴収」に変更することを忘れずに
許可申請は「面倒な手続き」ではなく「合法的に稼ぐための保険」だ。 通ってしまえば、後ろめたさのない副収入が手に入る。
副業の全体像については公立教員副業ガイド(ピラー記事)も合わせて読むと、制度の位置づけが分かりやすくなる。
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免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としています。副業の可否は自治体・任命権者によって異なります。法的・税務的な個別判断は弁護士・税理士にご相談ください。
