国家公務員として働きながら、実家から不動産を相続した。 親の農地を引き継ぐことになった。 屋根に太陽光パネルを載せたい。
こういった状況になったとき、「これって副業になるの?」「申請が必要なの?」と戸惑う人は多い。
結論から言うと、国家公務員の「自営兼業」には明確なルールがある。 一定の規模を超えれば申請が必須で、無申請のまま放置すると懲戒処分のリスクが生じる。 逆に規模要件に収まっていれば、申請なしで続けられるケースも多い。
この記事では、国家公務員法第103条と人事院規則14-8の内容を踏まえながら、 自営兼業の承認制度を実務ベースで整理する。 2026年4月に行われた制度改正も含めて最新情報を反映している。
「自営兼業」とは何か
国家公務員法第103条は、職員が「営利企業等」に関与することを制限している。 具体的には2つの類型がある。
役員兼業(第103条第1項) 営利企業の役員・顧問・評議員の職を兼ねること。 これは人事院の承認がなければ原則禁止。
自営兼業(第103条第2項) 自ら事業を営むこと。 商業・工業・農業、不動産賃貸、太陽光発電など幅広く対象になる。 こちらも原則禁止だが、人事院規則14-8に定める要件を満たして承認を受ければ認められる。
「自営兼業」という言葉は法律の条文には直接登場しない。 人事院規則14-8の運用通知(昭和31年職職第599号)の中で使われている概念で、 実務上は「所轄庁の長が承認権者となり、一定基準のもとで認める副業」という整理になる。
重要なのは、承認を受ければ認められるという点だ。 「公務員は副業禁止」という認識が広まっているが、正確には「無許可での営利目的活動が禁止」であって、 手続きを経れば合法的に自営を続けられる仕組みが整っている。
2026年4月の制度改正でどう変わったか
2025年12月、人事院が「自営兼業制度の見直し」を発表。 2026年4月から新制度が運用されている。
大きく変わった点は3つ。
1. 不動産賃貸の基準が緩和された 改正前は年収500万円以上で申請必要だったが、 改正後は「年収1,000万円未満かつ面積600㎡未満」であれば室数に関わらず申請不要になった。
2. 太陽光発電の閾値が引き上げられた 改正前は定格出力10kW以上で申請対象だったが、 改正後は50kW未満であれば申請不要になった。
3. 新カテゴリーが追加された 従来の制度では、不動産賃貸・太陽光発電・家業継承(農業等)の3分野しか承認対象がなかった。 2026年4月からは「職員の知識・技能を活かした事業」「社会貢献に資する事業」が新たに対象に加わった。 手芸品の販売、スポーツ・芸術教室の開業、地域振興イベントの主催、高齢者の買い物代行などを想定している。
この記事では、改正後の2026年4月時点の基準で解説する。
申請が必要なケース
不動産賃貸
不動産賃貸で申請が必要になるのは、以下のいずれかに該当する場合。
- 独立家屋を5棟以上保有・賃貸している
- アパート等の部屋数が10室以上ある
- 賃料収入が年1,000万円以上(2026年4月改正後の基準)
- 賃貸面積が600㎡以上
旧基準では年500万円以上が申請対象だったが、2026年4月の改正で1,000万円に引き上げられた。 ただし面積基準(600㎡)は新たに追加された要件なので注意が必要。
「5棟10室基準」というのは不動産所得の事業的規模と一致する。 税務上の「事業的規模」と人事院規則の「申請対象規模」がほぼ連動している、と覚えておくと整理しやすい。
太陽光発電
太陽光電気の販売で申請が必要なのは、定格出力50kW以上の設備を持つ場合。
2026年4月改正前は10kW以上が対象だったが、50kW未満は申請不要になった。 一般家庭の屋根に設置する太陽光パネルは10kW未満がほとんどなので、 改正後は多くのケースで申請手続きが不要になった。
50kW以上というのは「低圧以上の産業用太陽光」に相当するレベル。 相続や不動産購入に付随して取得するケースでなければ、まず該当しない規模感だ。
駐車場
月極駐車場の賃貸で申請対象となるのは以下のケース。
- 収容台数10台以上
- 機械式設備(自動精算機、ゲートなど)がある場合
「10台未満の更地で駐車させているだけ」なら申請不要。 ただし機械設備がある場合は台数に関わらず申請対象になるので気をつけたい。
農業・林業・その他家業
農業や林業を継承するケースでは、次の要件が承認基準となる。
- 職務の遂行に支障が生じないこと
- 農業等の管理を管理受託者または家族が主体的に担っていること
- 職員本人が直接・継続的に農作業等に従事する度合いが小さいこと
農業については規模の数値基準が明示されていない。 実態として「休日に少し手伝う程度」なら申請対象外に近い運用がされている一方、 売上が発生し事業として継続する場合は申請が必要と判断されやすい。 不安であれば所属機関の人事担当に確認するのが確実だ。
申請が不要なケース
以下のケースは申請なしで続けられる。
規模要件未満の不動産賃貸 4棟9室以下かつ年収1,000万円未満・面積600㎡未満であれば、届出・申請なしで可。 ただし、確定申告は別途必要になる場合がある(後述)。
50kW未満の太陽光発電 自宅の屋根に載せる一般的な設備は、2026年4月改正後ほぼ申請不要になった。
相続によって規模要件を一時的に超えた場合 相続で突然「5棟以上」になってしまった場合、 すぐに申請が必要になるかどうかは状況による。 人事院のQ&Aでは、「相続によって継続することになった自営については、 継続の事実を速やかに所轄庁に届け出て、申請手続きに入る」という整理がされている。 慌てず、まず人事担当に相談することが現実的な対応だ。
給与・賞与等の収入のみの場合 当然ながら、国家公務員の給与のみで不動産を保有していないケースは対象外。
申請手続きの流れ
ステップ1:所属長への相談
まず直属の上司または人事担当部署に相談する。 「自営兼業承認申請をしたい」と伝えれば、所属機関のルートを案内してもらえる。
書類を一人で揃えて提出する前に、 「申請対象になるかどうか」を人事担当に確認するのがスムーズ。 規模の判定に迷う場合も、この段階で相談できる。
ステップ2:申請書と添付書類の準備
不動産賃貸の場合に必要な書類は次のとおり。
- 自営兼業承認申請書(不動産等賃貸関係)【別紙第1様式】
- 不動産登記簿の謄本
- 不動産の図面(賃貸状況を示すもの)
- 賃貸借契約書の写し(賃料収入を確認するため)
- 不動産管理会社への管理委託契約書の写し(管理を委託している場合)
- 職員の人事記録の写し
太陽光発電の場合は、定格出力を示す仕様書の写しと、 電力売却契約書の写しが追加で必要になる。
農業・家業継承の場合は「事業を継承したことを明らかにする書面」が必要で、 相続であれば遺産分割協議書の写しなどが該当する。
書類は人事院のウェブサイト(jinji.go.jp)から様式をダウンロードできる。
ステップ3:所轄庁の長を経由して承認権者へ提出
国家公務員の自営兼業の承認権者は「所轄庁の長」が基本だが、 各府省の官房長や人事院が関与する場合もある。 実際の決裁ルートは府省・機関によって異なるので、所属機関の指示に従う。
決裁期間の目安は1〜3か月。 年度をまたぐ場合や書類に不備があると長引くこともある。 承認が下りるまでは、自営を始めてはいけない(相続の場合は継続状態になるが、届出は必要)。
ステップ4:承認後も継続的な報告義務
承認を受けたあとも、条件が変わった場合(規模の拡大、管理形態の変更など)は 改めて届出・申請が必要になる。 年に一度、状況変更の有無を報告するよう求める機関もある。
承認されやすいケース・されにくいケース
通りやすい
- 不動産管理を管理会社に全委託している
- 規模要件をわずかに超えた程度で、本業への支障が明らかに少ない
- 相続によって取得したもので、本人の積極的な意思で始めた事業ではない
- 職員の官職と賃貸物件の間に「利害関係」がない(国土交通省職員が所管地域に物件を持つ、等でなければOKが多い)
通りにくい・要注意
- 本人が日常的に管理・経営に関わっている(客付け営業、賃料集金など)
- 職務に関連する業種や地域での事業(利害関係の発生リスクが高い)
- 職務時間中に事業対応をしている証拠がある
- 申請書類が不完全・情報が不正確
ポイントは「本業に支障が出るか」と「利害関係が生じるか」の2点。 この2点をクリアしていれば、基本的に承認される可能性は高い。
国立大学法人の教員・公立教員との違い
国立大学法人の教員
2004年の国立大学法人化以降、国立大学の教員は国家公務員ではなくなった。 国立大学法人の職員は「みなし公務員(準公務員)」と呼ばれることがあるが、 法的には各大学法人の就業規則・兼業規程が適用される。
つまり、人事院規則14-8の適用対象外だ。
ただし各大学法人の兼業規程は国家公務員の制度を参考に作られているケースが多く、 承認手続きの考え方は似ている部分も多い。 判断基準は所属大学の担当部署に確認するしかない。
なお、文部科学省の本省に勤務する教員・職員は国家公務員なので、 人事院規則14-8が適用される。
公立学校の教員(地方公務員)
都道府県・市区町村に採用された公立学校教員は地方公務員。 国家公務員法ではなく、地方公務員法や各自治体の服務規程が適用される。
地方公務員の兼業制度は、自治体ごとに規定が異なる。 人事院規則のような統一基準はなく、教育委員会の判断が中心になる。
自営兼業の申請手続きや承認基準も、国家公務員とは別の制度だ。 詳細は公立学校教員の副業申請ガイドを参照してほしい。
違反した場合のリスク
懲戒処分
無申請のまま自営兼業を続けると、懲戒処分の対象になる。
人事院が公表している懲戒処分事例には、以下のようなものがある。
- 家族からアパート・駐車場を相続し、承認申請をしないまま賃貸を続けていた → 戒告処分
- 勤務時間外に自営業を無申請で継続していた → 減給処分
相続のケースでも「知らなかった」は通用しない。 相続後は速やかに所属機関に届け出て、申請手続きに入る必要がある。
追徴課税
自営収入を申告せずにいた場合、税務調査で発覚すれば延滞税・無申告加算税が課される。 不動産収入であれば、口座への振込履歴が残るため発覚しやすい。 兼業承認の有無に関わらず、確定申告は義務だ。
確定申告・住民税の扱い
確定申告が必要なケース
不動産賃貸や太陽光発電の売電収入がある場合、 年間の収入・経費を計算して確定申告が必要になるケースがほとんど。
具体的には「不動産所得が20万円を超える場合」は確定申告が必要。 所得 = 収入 - 必要経費(減価償却・管理費・固定資産税・修繕費など)で計算する。
不動産の「事業的規模」(5棟10室以上)に達している場合は、 青色申告(65万円控除)の適用を検討する価値がある。
住民税の取り扱いと「バレ」対策
確定申告をすると、副業分の所得が住民税に上乗せされる。 住民税は通常、勤務先(国)が給与から天引きする「特別徴収」で処理される。
自営収入分の住民税を自分で払いたい場合、 確定申告書の「住民税・事業税に関する事項」欄で 「自分で納付(普通徴収)」を選択できる。
ただし2026年度以降、給与収入分は特別徴収が原則維持されており、 普通徴収を選べるのは「給与以外の所得部分」に限られる点に注意。
詳細は公務員の副業と住民税申告の関係で解説している。
確定申告の全体像については教員の副業と確定申告も参考にしてほしい。
2026年4月改正で新たに認められた「知識・技能を活かした事業」
2026年4月の見直しで最も注目を集めたのが、 「職員の有する知識・技能をいかした事業」「社会貢献に資する事業」の新設だ。
具体例として人事院が挙げているのは以下のようなもの。
- 手芸品・工芸品の制作・販売
- スポーツ・芸術関係の教室の開業
- 地域振興イベントの主催
- 高齢者の買い物代行など社会貢献型サービス
これまでの制度は「不動産・太陽光・農業」という資産型の自営しか認めていなかった。 今回の改正で「本人の知識やスキルを使ったビジネス」も対象に加わった。
ただし「承認不要」ではなく、あくまで申請して承認を受ければ認められる制度。 要件は「本業に支障がない」「国民の信頼を損なわない」の2点に集約される。 開業届の提出と事業計画書の作成が求められる。
国家公務員である文科省職員・国立教育系機関の職員にとっては、 この改正で活動の幅が実質的に広がっている。
まとめ
国家公務員の自営兼業は「禁止」ではなく「申請制」。
- 規模要件を超えれば承認申請が必要
- 要件を満たせば、不動産・太陽光・農業・知識技能系の事業が認められる
- 2026年4月改正で不動産は年収1,000万円未満・太陽光は50kW未満が申請不要に
- 国立大学法人の教員は国家公務員ではなく、各大学法人の規程が適用される
- 公立教員は地方公務員として別制度
- 無申請での継続は懲戒処分リスク
- 自営収入は確定申告が必要
制度を正しく理解して、適切な手続きを踏めば合法的に副収入を得る道は開ける。 まず所属機関の人事担当に相談するところから始めてほしい。
次の一手
自営兼業の制度を理解したうえで、次のステップに進もう。
副業申請書類の書き方を確認する → 教員・公務員の副業許可申請書の書き方
副業収入の確定申告を理解する → 教員の副業と確定申告
住民税の取り扱いを整理する → 副業の住民税申告・普通徴収の選び方
公立教員の副業制度をまとめて把握する → 公立学校教員のための副業完全ガイド