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結論から言う
「住民税の申告不要制度」——上場株式等の配当所得・譲渡所得について、所得税と住民税で別の課税方式を選択できた制度——は、令和5年分(2023年分)の確定申告(令和6年度課税)から廃止済みだ。
「2026年に廃止される」という古い情報がいまだに出回っているが、それは間違い。 すでに終わった話として処理しないといけない。
この改正が教員にとって実際に何を意味するかは、副業の中身によって大きく変わる。
- NISAで運用している人: 関係なし(NISAは非課税口座なので、この改正の対象外)
- 特定口座(源泉徴収あり)で配当を受け取り、確定申告で配当控除を取ろうとしていた人: 要注意
- 副業で雑所得や事業所得があるだけの人: 直接関係なし(ただし20万円以下ルールの誤解は別途確認が必要)
この記事では以下を整理する。
- 廃止された「住民税申告不要制度」とは何だったか
- 令和5年分から何が変わったか(具体的な課税のされ方)
- 教員への波及効果——扶養・保育料・配偶者控除への影響
- NISAなら影響なしである理由
- 副業の「20万円以下なら申告不要」と住民税申告の関係(よく混同されるポイント)
- 今すべき再点検チェックリスト
免責事項: 本記事は一般的な情報提供目的であり、個別の税務アドバイスではありません。具体的な判断は税理士にご相談ください。
1. 廃止された制度——そもそも何が選べたのか
令和4年分(2022年分)以前の仕組み
上場株式等の配当所得や株式譲渡所得については、以前は所得税と住民税で異なる課税方式を選べた。
具体的には、次の3つの組み合わせが可能だった。
| 所得税の選択 | 住民税の選択 |
|---|---|
| 総合課税で申告 | 申告不要制度を選択 |
| 申告分離課税で申告 | 申告不要制度を選択 |
| 申告不要 | 申告不要 |
なぜこの組み合わせが使われていたかというと、所得税では確定申告して配当控除を受けつつ、住民税では申告不要にして住民税の所得を低く抑えるという節税スキームがあったからだ。
住民税の合計所得金額が増えると、国民健康保険料(組合員以外)・保育料・後期高齢者医療保険料・扶養判定・配偶者特別控除の適用に影響が出る。 だから「所得税は申告、住民税は申告しない」という選択に合理性があった。
教員は共済組合に加入しているので国保の問題はないが、扶養している家族がいる場合の扶養判定や、保育園を利用している場合の保育料の算定には、住民税の合計所得金額が影響する。
制度が廃止された理由
この「別々に選べる」仕組みは、所得税と住民税が同じ収入に対して別々のルールを適用するという制度的なゆがみがあった。 「節税できる人とできない人」で不公平感も生まれていた。
令和4年度税制改正大綱でこの制度の廃止が決定。 令和5年分(2023年分)の確定申告(令和6年度住民税課税)から適用された。
2. 令和5年分から何が変わったか
課税方式は所得税に連動する
廃止後のルールはシンプルだ。 所得税で選んだ課税方式が、そのまま住民税にも適用される。
| 所得税の選択 | 住民税の課税方式 |
|---|---|
| 申告不要 | 住民税も申告不要 |
| 総合課税で申告 | 住民税も総合課税 |
| 申告分離課税で申告 | 住民税も申告分離課税 |
選択の幅は変わっていない。 変わったのは「所得税と住民税で別々の選択ができなくなった」という点だけだ。
影響が出るのはどのケースか
令和4年分以前に「所得税は総合課税・住民税は申告不要」という組み合わせを使っていた人は、令和5年分から同じことができなくなった。
具体的には次のようなケースで影響が出る。
影響あり
- 所得税の確定申告で配当控除を受けていた(総合課税を選んでいた)
- 申告分離課税を選んで損益通算していた
これらのケースでは、以前は住民税で「申告不要」を選ぶことで住民税側の所得を抑えられていた。 令和5年分からはそれが使えない。
影響なし
- NISAで運用している(後述)
- 特定口座(源泉徴収あり)で確定申告しない(申告不要のまま)
- 副業が雑所得・事業所得のみ(配当とは無関係)
3. 教員への波及効果——扶養・保育料・配偶者控除
住民税の合計所得金額が増えるとどうなるか
配当所得を総合課税で申告して住民税に反映されると、住民税の合計所得金額が増える。 これが他の制度に連鎖する。
扶養控除の適用
被扶養者(子・親など)の合計所得金額が48万円以下であることが扶養控除の条件だ。 配当所得が住民税に算入されると、被扶養者の所得が条件をオーバーする可能性がある。
例えば、退職した親が特定口座の配当収入を年50万円受け取っている場合、以前は住民税で申告不要を選ぶことで所得を抑えられた。 令和5年分からはそれができないため、所得が48万円を超えて扶養から外れるケースが出てくる。
配偶者特別控除
配偶者の合計所得金額によって控除額が変わる。 配偶者が株式の配当収入を持っている場合、住民税の合計所得金額が増えて控除額が段階的に下がる可能性がある。
保育料の算定
認可保育園の保育料は、市区町村が定めた基準に基づき、住民税の所得割額等を参照して決まるケースが多い。 配当所得が住民税の課税ベースに算入されると、保育料が上がるケースがある。
配偶者(教員の場合は公立中学校教員のような場合も多い)の株・投資信託の配当が年間一定額あり、これを確定申告で申告している場合は、令和5年分から住民税も連動することを理解しておく必要がある。
教員自身の住民税への影響
教員は地方公務員の共済組合に加入しているため、国民健康保険料への影響はない。 一方、住民税の合計所得金額が増えることで住民税の課税額そのものが上がる。
以前は「所得税は総合課税、住民税は申告不要」で住民税負担を抑えることができていた。 それができなくなった分、配当を総合課税で申告している人は住民税が増えることになる。
4. NISAなら影響なしである理由
NISA口座の配当・売却益は非課税
新NISA(2024年〜)の成長投資枠・つみたて投資枠の口座内で受け取る配当・分配金・売却益は非課税だ。 所得税も住民税も課税されない。
「課税方式の統一」という改正は、課税される所得に対してどの方式で課税するかを統一するものだ。 非課税のものは最初からそもそも課税されないため、この改正の影響を受けない。
NISAで保有している株の配当がいくらあろうと、それは合計所得金額に算入されない。 扶養判定にも保育料にも影響しない。
ただし受取方法に注意
NISAの配当が非課税になる条件として、**「株式数比例配分方式」**での受け取りが必要だ(株式の配当の場合)。 この方式を選んでいないと、NISA口座外で受け取った扱いになり課税対象になる。
証券会社の設定を今一度確認しておく価値がある。
投資信託の分配金はNISA口座で保有していれば受取方法によらず非課税になるため、こちらは問題ない。
教員のNISA活用については教員のNISA完全ガイドで詳しく整理しているので参考にしてほしい。
5. 副業の「20万円以下ルール」と住民税申告の関係
ここが一番混同されやすい
副業のある教員が「住民税申告不要制度が廃止された」という話を聞いて、「じゃあ副業収入の20万円以下ルールが使えなくなったの?」と混乱することがある。
これは別の話だ。
整理すると次のようになる。
| ルール | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 住民税申告不要制度(廃止) | 配当所得・株式譲渡所得 | 所得税と住民税で課税方式を別々に選べた制度。令和5年分から廃止 |
| 20万円以下ルール | 副業の雑所得・事業所得等 | 給与以外の所得が年20万円以下なら所得税の確定申告が不要な特例。今も継続 |
「20万円以下ルール」は所得税に関する特例であり、住民税には関係ない。 廃止もされていないし、2026年現在も有効だ。
20万円以下でも住民税の申告は必要
ここは別途注意が要る。
所得税の「20万円以下なら確定申告不要」というルールは、住民税には適用されない。 副業所得が20万円以下で確定申告をしない場合でも、住民税の申告は原則として必要だ。
手順は次のとおり。
- 確定申告をする場合 → 申告内容が市区町村に通知されるため、住民税申告は不要
- 確定申告をしない場合(20万円以下)→ 住所地の市区町村に「住民税申告書」を3月15日(目安)までに提出する
「20万円以下だから何もしなくていい」と放置していると、後から住民税の追徴が来ることがある。 これは廃止された制度とは無関係に、以前から変わらないルールだ。
副業の確定申告と住民税申告の全体像については教員の副業確定申告・完全手順で詳しくまとめている。
6. 特定口座(源泉徴収あり)の人が再確認すること
源泉徴収あり口座は確定申告しなければ影響なし
特定口座(源泉徴収あり)で配当を受け取っている場合、確定申告しなければ「申告不要」のまま処理される。 この場合、所得税も住民税も口座内で源泉徴収されて完結するため、今回の改正による実務への影響はない。
問題になるのは、確定申告することで還付等のメリットを取ろうとする場合だ。
確定申告すると住民税にも反映される
例えば、次のようなケースで確定申告を検討することがある。
- 上場株式の損益通算をしたい(複数口座の損益を相殺したい)
- 配当控除を使って所得税の還付を受けたい
- 繰越損失の控除を受けたい
これらのために確定申告をすると、令和5年分からは住民税にも同じ課税方式が連動する。 以前は「所得税は総合課税で申告→配当控除で還付を受け、住民税は申告不要で合計所得金額を抑える」という選択ができた。 これが令和5年分からできなくなった。
具体的なシミュレーション例
仮に年収430万円の教員Aさんが、特定口座で配当収入50万円(源泉徴収済み)を持っているとする。
令和4年分以前:
- 所得税: 総合課税で確定申告 → 配当控除(所得税率低減)で還付あり
- 住民税: 申告不要を選択 → 合計所得金額に配当50万円が算入されない
令和5年分以降:
- 所得税: 総合課税で確定申告 → 配当控除で還付
- 住民税: 総合課税で申告(連動)→ 合計所得金額に配当50万円が算入される
- → 住民税が増える + 各種控除・保育料判定にも影響
つまり、「確定申告で配当控除を取るかどうか」の損益計算が変わった。 配当控除による所得税の還付額 < 住民税の増加額 になるケースも出てくる。 確定申告したほうが得かどうかは、個人の所得状況を見て判断する必要がある。
7. 副業で配当・株式収入を持つ教員が今確認すること
チェックリスト
以下の質問でYESが1つ以上あれば、この改正が自分に関係する可能性がある。
□ 特定口座(源泉徴収あり)で配当収入を受け取っている □ 令和4年分以前に、配当を確定申告していた(総合課税または申告分離課税) □ 損益通算のために毎年確定申告している □ 配偶者や親族が配当収入を持っており、自分の扶養に入れている □ 子どもが認可保育園に通っており、保育料に関心がある
すべてにNOなら、この改正で実務上の変化はほとんどない。
NISAだけで運用している場合
新NISAの範囲内だけで運用している教員は、この改正に関しては完全にスルーしていい。 ただし前述の通り、NISAの配当受取方式は「株式数比例配分方式」に設定されているかだけ確認しておく。
iDeCoの拠出については配当課税方式の問題とは無関係だが、iDeCo自体の節税メリットを最大化する整理として教員のiDeCo完全ガイドも参照してほしい。
判断が難しいと感じたら
今後の運用方針として「確定申告をするかしないか」の損得計算が複雑になるケースがある。 年収・配当金額・家族構成・保育料の状況が絡むため、自分だけで計算するのが難しい場合は税理士に相談するのが確実だ。
8. 制度改正の背景——なぜ廃止されたのか
不公平感の是正
所得税と住民税で異なる課税方式を選べること自体、制度としての整合性を欠いていた。 税制の原則は「同じ所得には同じルールを適用する」。
配当課税方式の選択分離は、本来一体設計だった所得税と住民税のシステムに、特例として「別々選択」を後付けしたものだった。 知識のある人だけが節税できるという不公平さも問題視されていた。
令和4年度税制改正大綱での決定
廃止の方針は令和4年度税制改正大綱(2021年12月閣議決定)に明記された。 「上場株式等の配当所得等及び譲渡所得等に係る住民税の課税方式の見直し」として整理された。
適用は令和5年分(2023年分)の確定申告(令和6年度住民税)から。 つまり2024年2〜3月に提出した確定申告から新ルールが適用されている。
9. 副業とふるさと納税への影響
住民税の所得割が増えるとふるさと納税の控除上限も上がる
少し別の視点として、配当所得が住民税に算入されることで、ふるさと納税の住民税控除(特例分)の上限が上がるケースがある。
ふるさと納税の住民税控除(特例分)は、住民税の所得割額の20%が上限だ。 配当所得が住民税の課税ベースに含まれると住民税所得割額が増え、ふるさと納税の控除上限も増える。
プラスに働く部分もあるということだ。
ふるさと納税の控除上限の計算方法については教員のふるさと納税完全ガイドで整理している。
10. よくある質問
Q. 住民税の申告不要制度はいつ廃止されましたか?
令和5年分(2023年分)の確定申告からすでに廃止済みだ。 2024年2〜3月に出した確定申告が最初の新ルール適用回。 「2026年廃止」という情報は古く、現時点では誤りとなる。
Q. NISAで運用していれば関係ない?
NISAは非課税なので、この改正の影響を受けない。 ただしNISAの株式配当を非課税で受け取るには「株式数比例配分方式」の設定が必要な点は確認しておくこと。
Q. 副業収入が20万円以下なら住民税の申告も不要?
これは別の話だ。 「20万円以下なら確定申告不要」は所得税の特例であり、住民税には適用されない。 副業所得が20万円以下でも、住民税の申告は原則として市区町村に別途必要になる。
Q. 特定口座(源泉徴収あり)で確定申告しない場合は影響ある?
確定申告しなければ、実務上の変化はほとんどない。 影響が出るのは「確定申告することで配当控除や損益通算を取ろうとする場合」に限られる。
まとめ
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 制度廃止のタイミング | 令和5年分(2023年分)確定申告から。すでに廃止済み |
| 廃止された制度の内容 | 配当所得等について所得税と住民税で別の課税方式を選べた仕組み |
| 影響を受ける人 | 特定口座等の配当を確定申告で申告していた人 |
| 影響を受けない人 | NISAのみ運用の人・配当所得を確定申告しない人 |
| 副業20万円ルールとの関係 | 無関係。20万円ルールは廃止されていないし、住民税の申告義務も変わらない |
| 波及効果 | 住民税増加 + 扶養判定・保育料・配偶者控除への影響 |
教員が持つ副業収入には、雑所得系のもの(原稿料・講演料)と、投資系のもの(配当・売却益)が混在することがある。 今回の改正は後者の「投資系収入を確定申告で申告するかどうか」の判断に影響するものだ。
前者の雑所得系副業については教員の副業確定申告・完全手順と教員で確定申告が必要な人チェックリストで整理している。 節税の全体設計についても組み合わせて読んでほしい。
本記事は2026年5月時点の情報をもとに作成しています。 税制・制度は随時変更される場合があります。 最新の個別判断は税理士にご確認ください。
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この記事は元小学校教員が執筆。