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市販薬に年間1〜2万円使っているのに、確定申告で何も回収していない教員は多い。 「医療費控除は10万円超えないと使えない」と思い込んでいるからだ。

ところが、セルフメディケーション税制という別の制度を使えば、市販薬だけで年間12,000円を超えた分が丸ごと所得控除の対象になる。 医療費が少なくても使えるのが最大の強みだ。

ただし通常の医療費控除と同時には使えない。 どちらが有利かを正しく判断するには、仕組みを理解しておく必要がある。

この記事では、セルフメディケーション税制の基本から、教員が要件を満たすための健康診断の話、確定申告の手順、そして医療費控除とどちらを選ぶべきかのシミュレーションまでをまとめた。


セルフメディケーション税制とは何か

セルフメディケーション税制は、正式名称を「特定一般用医薬品等購入費の所得控除制度」という。 医療費控除の特例として2017年に導入され、2026年12月31日まで延長が確定している。

制度の目的

病院に行くほどではない軽い症状を自分で薬を買って対処する——これを「セルフメディケーション」という。 国としては、人々が自分で健康を管理してくれれば医療費の抑制につながる。 その取り組みを税制上で優遇するのがこの制度だ。

ただし、無条件に使えるわけではない。 「健康のために何らかの取り組みをしている人」だけが対象になる。 後述する「一定の取組」の要件を満たすことが前提条件だ。

控除の対象は「スイッチOTC医薬品」

スイッチOTC医薬品とは、もともと医師の処方箋が必要だった医療用医薬品を、ドラッグストアや薬局でも買えるよう一般用(OTC)に転換した医薬品のことだ。 「OTC」はOver The Counter(カウンター越しに買える)の略だ。

加えて、2022年以降はスイッチOTCと同種の効能・効果を持つ一定の医薬品も対象に追加されている。

身近な例を挙げると:

  • ロキソニンS、バファリンプレミアム(解熱鎮痛)
  • アレグラFX、クラリチンEX(花粉症)
  • ガスター10(胃腸薬)
  • トランシーノII(美白・シミ系)
  • ブテナロック、ラミシールAT(水虫薬)

これらはドラッグストアで普通に買える薬だが、対象品目に指定されていればセルフメディケーション税制に使える。

レシートの「★」マークを見れば一発でわかる

対象商品のレシートには、商品名の前に「★」や「☆」などのマークが印字される。 あわせて「★印は税制対象品目」などの注記も入る仕様になっている。

もし確認したいなら、厚生労働省が対象品目の一覧を公開している。 ただ数千品目あるので、実際はレシートのマークを頼りにするのが現実的だ。


控除額の計算式

計算はシンプルだ。

控除額 = 対象医薬品の購入額 − 12,000円

上限: 88,000円(購入額が100,000円以上になると上限に達する)

例えばロキソニンS・アレグラFX・ガスター10などを年間合計35,000円分購入した場合:

35,000円 − 12,000円 = 23,000円の所得控除

この23,000円が所得から引かれるので、税率ごとの節税額は以下になる。

所得税率 住民税 節税額の目安(控除23,000円の場合)
5% 10% 3,450円
10% 10% 4,600円
20% 10% 6,900円
23% 10% 7,590円

年収500〜700万円帯の教員は所得税率が20〜23%になるケースが多いので、控除を受ければ5,000〜8,000円程度の節税になる。


通常の医療費控除との違い

この2つは「どちらかしか使えない」という関係だ。 同じ年の申告で両方を選ぶことはできない。

比較項目 医療費控除 セルフメディケーション税制
足切りライン 10万円(または所得の5%) 12,000円
対象 医療費全般(診察・薬・交通費等) 対象OTC医薬品のみ
上限控除額 200万円 88,000円
健康診断等の要件 なし あり(一定の取組が必要)
向いているケース 医療費が多い年 医療費が少なく市販薬が多い年

通常の医療費控除は、大きな手術や入院、家族全員の医療費を合算して10万円を超えるような年に向いている。 一方、風邪薬や花粉症薬をコンスタントに買っているが病院にはほとんど行かない——という教員にはセルフメディケーション税制のほうが合っている場合が多い。

詳しい医療費控除の仕組みと家族合算のやり方は教員が知っておくべき医療費控除の全手順にまとめてある。


適用要件——「一定の取組」とは何か

セルフメディケーション税制を使うには、申告する本人が以下のいずれかを該当年中に実施していることが必要だ。

  1. 保険者(健康保険組合・共済組合等)が実施する健康診査
  2. 市区町村の健康増進事業による健康診査
  3. 定期予防接種・インフルエンザ予防接種
  4. 勤務先が実施する定期健康診断(事業主健診)
  5. 特定健康診査(メタボ健診)・特定保健指導
  6. 市町村が実施するがん検診

教員にとって最もハードルが低いのは、4番の勤務先の定期健康診断だ。 学校に勤めていれば毎年春〜初夏に行われる法定の定期健診がそのまま要件を満たす。

共済組合(文部科学省共済組合・各都道府県の教職員共済等)が提供する人間ドックも1番の「保険者が実施する健康診査」に該当する。 費用補助を受けながら人間ドックを受診して、同時にセルフメディケーション税制の要件も満たせる——一石二鳥の使い方だ。

インフルエンザ予防接種だけでも要件を満たせるのは知られていない。 学校では集団接種が推奨されることも多いので、該当する教員も多いはずだ。

書類の提示・添付は不要だが5年間保管が必要

2021年(令和3年)分以降は、確定申告書に「取組を証明する書類」を添付・提示する必要はなくなった。 ただし税務署から求められた場合に備えて、申告期限から5年間は手元で保管しなければならない。

健診結果の紙・インフルエンザ接種の領収書などは、捨てずに保管しておくこと。


教員はどの健康診断が要件を満たすか

教員が受ける主な健康診断の種類と、セルフメディケーション税制の要件該当可否をまとめる。

健診の種類 主な実施主体 要件該当
学校の定期健康診断 事業主(学校) 該当(4番)
共済組合の人間ドック 共済組合 該当(1番)
共済組合のがん検診 共済組合 該当(1番)
特定健康診査(メタボ健診) 共済組合・健保 該当(5番)
インフルエンザ予防接種 医療機関等 該当(3番)
自費人間ドック(保険適用外) 医療機関(自己手配) 非該当の場合あり

「自費で受けた人間ドック」は、共済組合等の保険者が費用補助して実施している場合は該当する。 が、完全に個人で契約した人間ドックは要件に当たらない可能性がある。 不安なら共済組合経由で受診するのが確実だ。


配偶者・子の市販薬代も合算できる

セルフメディケーション税制は「生計を一にする家族」の対象医薬品購入費を合算できる。

配偶者が花粉症薬を毎月買っていたり、子どもが風邪薬・皮膚薬を頻繁に使っていたりする場合、それらすべてを足し合わせて12,000円超えを判定できる。

注意点が1つある。 取組の要件を満たすのは「申告する本人」だけで足りる。 つまり教員本人が学校の定期健診を受けていれば、配偶者が健診未受診でも問題ない。

ただし、控除を受けられるのは1人の申告者だけだ。 夫婦それぞれが別々に申告して二重取りすることはできない。


確定申告で必要な書類

セルフメディケーション税制を申告するために用意するものは以下だ。

必須書類:

  1. 対象医薬品のレシート・領収書(年間分)
    • 購入日・店舗名・商品名・金額が印字されているもの
    • 「★」などの対象マークが入っているものが望ましい
  2. 一定の取組を証明する書類(提出不要だが5年保管)
    • 健康診断の結果通知書・受診証明書
    • 予防接種の領収書・証明書

申告に使う書式:

  • 確定申告書(第一表・第二表)
  • 医療費控除の明細書(セルフメディケーション税制用の付表を使う)

e-Taxで申告する場合は明細書の入力フォームが用意されているので、レシートを見ながら購入履歴を入力していくだけだ。

e-Taxでの申告手順(概要)

  1. 国税庁「確定申告書等作成コーナー」にアクセス
  2. 「所得税」を選択 → 必要情報を入力
  3. 「医療費控除」の項目で「セルフメディケーション税制(特例)」を選択
  4. 対象医薬品の購入費用の合計額を入力(12,000円超の部分が自動計算される)
  5. 一定の取組の種類を選択して完了

確定申告の全体的な手順は教員の確定申告が必要なケースとe-Tax完全手順にまとめてある。 あわせて確認してほしい。

レシートの保管期間は5年

対象医薬品のレシートは申告期限から5年間保管が義務付けられている。 税務調査などで提示を求められる可能性があるからだ。

毎年1月1日からレシートを1か所にまとめておく習慣をつけると楽だ。 封筒に年ごとにまとめて保管するか、スマホで撮影してフォルダ管理するかのどちらかが管理しやすい。


医療費控除 vs セルフメディケーション——どちらが得かのシミュレーション

同じ年に両方は使えないので、有利なほうを選ぶ必要がある。 年収別に、具体的な数字で比較してみる。

前提条件

  • 市販薬の購入: 年間35,000円(対象OTC医薬品のみ)
  • 診察・入院等の医療費: A=なし / B=80,000円 / C=120,000円
  • 家族構成: 本人のみ(配偶者・子の医療費なし)

年収500万円(所得税率10%、住民税10%)の場合

Aパターン(市販薬35,000円のみ)

制度 控除額 節税額(合計)
医療費控除 0円(10万円未満) 0円
セルフメディケーション 23,000円 4,600円

→ セルフメディケーション税制が有利。というより医療費控除は使えない。

Bパターン(市販薬35,000円 + 診察等80,000円)

合計医療費: 115,000円

制度 控除額 節税額
医療費控除 15,000円 3,000円
セルフメディケーション 23,000円 4,600円

→ セルフメディケーション税制がやや有利。

Cパターン(市販薬35,000円 + 診察等120,000円)

合計医療費: 155,000円

制度 控除額 節税額
医療費控除 55,000円 11,000円
セルフメディケーション 23,000円 4,600円

→ 医療費控除が圧倒的に有利。

年収600万円(所得税率20%、住民税10%)の場合

Aパターン(市販薬35,000円のみ)

制度 控除額 節税額
医療費控除 0円 0円
セルフメディケーション 23,000円 6,900円

→ セルフメディケーション税制一択。

Bパターン(市販薬35,000円 + 診察等80,000円)

制度 控除額 節税額
医療費控除 15,000円 4,500円
セルフメディケーション 23,000円 6,900円

→ セルフメディケーション税制が有利。

Cパターン(市販薬35,000円 + 診察等120,000円)

制度 控除額 節税額
医療費控除 55,000円 16,500円
セルフメディケーション 23,000円 6,900円

→ 医療費控除が有利。

年収700万円(所得税率23%、住民税10%)の場合

Bパターン(市販薬35,000円 + 診察等80,000円)

制度 控除額 節税額
医療費控除 15,000円 4,950円
セルフメディケーション 23,000円 7,590円

→ セルフメディケーション税制がまだ有利。

Cパターン(市販薬35,000円 + 診察等120,000円)

制度 控除額 節税額
医療費控除 55,000円 18,150円
セルフメディケーション 23,000円 7,590円

→ 医療費控除が有利。

シミュレーションのまとめ

大まかな判断基準として:

  • 医療費(診察・入院等)が10万円を超えていない年 → セルフメディケーション税制
  • 医療費が10万円を超えていて、市販薬との合計が大きい年 → 通常の医療費控除
  • 特に診察費がほぼなく市販薬だけ使っている年 → 迷わずセルフメディケーション税制

年末に向けて両方の合計をざっと計算して、どちらが有利か確認する習慣をつけると節税効果が上がる。


共済組合の付加給付との関係

教員が所属する共済組合(文部科学省共済組合など)には、医療費の自己負担が一定額を超えた場合に超過分を還付する付加給付制度がある。

医療費控除を計算する際は、この付加給付で戻ってきた金額を「保険金等で補填された額」として差し引く必要がある。

一方、セルフメディケーション税制の対象はOTC医薬品(市販薬)だけなので、共済の付加給付の対象外になることが多い。 セルフメディケーション税制を使う場合は付加給付との調整は基本的に不要だ。

ただし共済組合によってはOTC医薬品にも何らかの補助をしているケースがゼロではないため、自分の共済組合のルールは確認しておくと安心だ。


よくある質問(FAQ)

Q1. 夫婦どちらで申告するほうが得ですか?

控除額は同じでも、所得税率が高いほうで申告するほうが節税額は大きくなる。 年収の高いほうが申告すると、税率20〜23%で計算されるのでお得だ。

ただし「取組の要件を満たしているのは申告する本人」である必要がある点だけ注意。 収入が高くても、その年に健診もインフルエンザ接種も受けていなければ申告できない。

Q2. 年の途中で退職した場合はどうなりますか?

退職した年も、在職中に定期健診を受けていれば「一定の取組」の要件を満たす。 退職後に医薬品を購入した分も合算できる。 翌年3月の確定申告で申請すればよい。

Q3. 対象外だった薬を誤って計上してしまった場合は?

修正申告で訂正できる。 大きな差額が出る場合は修正が必要だが、少額なら追徴税額も小さい。 そもそも誤計上を防ぐためにも、レシートの「★」マークを都度確認する習慣をつけておこう。

Q4. 会社員の教員(私立)でも使えますか?

私立学校の教員でも、公立と同様に使える。 勤務先の定期健康診断を受診していれば要件を満たすし、対象OTC医薬品を購入していれば申告できる。 勤務先の年末調整では医療費控除・セルフメディケーション税制は処理できないので、別途確定申告が必要だ。

Q5. ドラッグストアのポイント還元は「補填された額」に入りますか?

国税庁の解釈では、ポイント還元は「保険金等で補填された金額」には該当しないとされている。 ポイント分を差し引く必要はなく、支払った現金の金額で計算してよい。

Q6. 漢方薬・サプリメントは対象になりますか?

漢方薬は、スイッチOTC医薬品に指定されているものであれば対象になる。 サプリメントや栄養補助食品は「医薬品」ではないため対象外だ。 「医薬品」と「医薬部外品」「食品」は別物なので、パッケージの区分表示を確認すること。

Q7. 確定申告はいつまでにすればいいですか?

2025年(令和7年)分の申告期限は2026年3月16日だ。 過去5年分は遡って申告(還付申告)が可能なので、今年初めて知った場合でも過去分をまとめて申請できる。


節税の全体像でとらえる

セルフメディケーション税制単体で得られる節税額は数千円〜1万円前後だ。 小さく見えるかもしれないが、手間はレシートを集めてe-Taxで数字を入力するだけ。 1時間もかからない作業で毎年確実に取れる節税だ。

教員が使える控除は他にも多い。 特定支出控除(スーツ・教材・書籍・研修費等)と組み合わせると節税効果が上がる。 詳しくは教員の特定支出控除——スーツ・教材・研修費を経費にする方法を参照してほしい。

また、所得控除全体を年末調整で整理したい場合は教員の年末調整の書き方と記入例も役に立つ。

住民税への影響も気になるなら教員の住民税の仕組みと節税のポイントも読んでおくといい。


まとめ——セルフメディケーション税制を使う判断フロー

最後に、使うべきかどうかの判断を整理する。

  1. その年に「一定の取組(学校健診・共済健診・インフルエンザ接種等)」を受けたか → Noなら対象外
  2. 対象OTC医薬品を年間12,000円以上購入したか → Noなら対象外
  3. 医療費控除(診察費・入院費含む合計)とセルフメディケーション税制のどちらが控除額大きいか → 大きいほうを選ぶ

教員の場合、毎年の定期健診で「一定の取組」の要件は自動的に満たしている。 あとはレシートを集めて12,000円を超えているか確認するだけだ。

小さな節税の積み上げが、長期的な資産形成の土台になる。 NISAiDeCoと組み合わせた教員の資産形成の全体像は、ピラー記事で体系的に整理しているので参照してほしい。


免責事項

本記事は2026年5月時点の税制に基づき、一般的な情報提供を目的として作成しています。 セルフメディケーション税制の適用可否・計算方法は個人の状況によって異なります。 申告内容に不安がある場合は、税理士または最寄りの税務署にご相談ください。 本記事の情報をもとに生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。