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結論から言う

公立教員の時間外勤務「月45時間」という数字は、2019年の文科省ガイドラインで初めて明示され、2025年の給特法改正によって法律に基づく指針として位置づけが強化された。

月45時間はあくまで「上限の目安」であり、超えたら直ちに違法になるわけではない。 ただし、2025年改正後の指針では教育委員会に達成計画の公表義務が課され、「守れなくても仕方ない」では済まない構造に変わりつつある。

そして見落としがちなポイントがある。 この上限の対象は超勤4項目以外の業務も含めた「在校等時間」全体だ。 「命じられた残業じゃないから時間外じゃない」という解釈は通用しない。

以下、制度の背景→カウント対象の範囲→自分の時間外を計算する方法→超過していた場合の対処、という順で点検していく。


月45時間上限の制度的背景

2019年ガイドライン――上限が初めて数字になった

給特法の世界で長年続いてきた「残業代なし・時間外命令は原則禁止」という建前は、現実の長時間勤務を放置する温床になっていた。

文科省は2019年1月、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定。 ここで初めて、1か月あたり時間外在校等時間45時間以内・1年間360時間以内という数字が明記された。

ただし当時は法的拘束力のある指針ではなく、「努力目標」に近い位置づけだった。

2020年改正給特法――指針の法的根拠が生まれる

2020年4月施行の改正給特法(第7条)で、「業務量の適切な管理等に関する指針」の策定が文科大臣の義務として法定化された。 ガイドラインは「文科省が出した参考資料」から「法律に基づく指針」に格上げされた形だ。

2025年改正給特法――教育委員会への義務が重くなる

2025年6月、参議院本会議で給特法等の改正法が成立した。 主な改正点は教職調整額の段階的引き上げ(4%→10%、毎年1%ずつ)だが、働き方改革面でも変化がある。

改正法では、教育委員会に対して時間外勤務の削減計画の公表義務が課された。 2025年9月26日に公示された新指針は、月45時間以内の教職員割合を100%にすることを目標として明記している。

現実には、2024年度調査で月45時間超の教員は小学校で64.5%、中学校で77.1%にのぼる。 制度と現実のギャップは大きいが、「目標として明文化されている」という事実は、教員個人が学校や教育委員会と交渉するときの根拠になりうる。

労働安全衛生法との関係

給特法は労働基準法の一部規定の適用除外だが、労働安全衛生法は適用される。 月の時間外在校等時間が80時間を超えた教員には医師による面接指導を行うことが求められており(安衛法66条の8に準じた措置)、これは上限45時間とは別のラインとして存在する。

「45時間は指針、80時間は安全衛生」という二段構えで頭に入れておくといい。

変形労働時間制との関係

2021年4月から、条例を制定した自治体では公立学校に「一年単位の変形労働時間制」を導入できる。 これは繁忙期の1日・1週の上限時間を引き上げる代わりに、夏休み中に休日をまとめ取りする仕組みだ。

ただし、月45時間の上限は変形労働時間制を採用していても変わらない。 「繁忙期だから45時間超でいい」というロジックは成立しないので注意してほしい。


何の時間がカウントされるか

「在校等時間」の定義

月45時間上限の対象は「時間外在校等時間」だ。 「在校等時間」とは、教育職員が学校教育活動に関する業務を行っている時間として外形的に把握できる時間の合計を指す。

具体的には以下が含まれる。

  • 出勤から退勤までの時間(休憩時間を除く)
  • 校内での授業準備・採点・会議
  • 校外研修・出張時間
  • 部活動顧問として関わっている時間

重要なのは、管理職から命じられたかどうかは関係ない点だ。 「自発的にやっているから時間外じゃない」は通用しない。学校教育活動に関する業務として把握できれば、在校等時間に算入される。

超勤4項目とそれ以外の業務

給特法では、管理職が教員に時間外勤務を命じることができるのは以下の4項目に限定されている。

  1. 生徒の実習に関する業務(校外実習・職場体験等の引率)
  2. 学校行事に関する業務(修学旅行・運動会・卒業式等)
  3. 教職員会議に関する業務(職員会議への参加)
  4. 非常災害等のやむを得ない業務(台風・児童への緊急対応等)

これが「超勤4項目」だ。

逆に言うと、普段の授業準備・採点・保護者対応・個別支援計画の作成・校務分掌業務などは超勤4項目に含まれない。 だからといってこれらの業務時間がノーカウントになるわけではない。 在校等時間として把握され、月45時間上限の計算対象に入る。

「残業を命じられていないから残業じゃない」という学校現場の慣行と、「在校等時間として把握する」という制度の建前が、ここで衝突する構造になっている。

休憩時間の扱い

勤務時間が6時間を超えると45分、8時間を超えると1時間の休憩が労働基準法上必要だ。 在校等時間の計算では、この休憩時間は差し引く。

ただし現実には、給食指導・昼休みの児童対応・電話対応などで休憩が取れていないケースが多い。 取れていない場合は休憩として差し引かれない=在校等時間にカウントされる、という考え方が適切だ。

持ち帰り業務の扱い

これが一番難しいところだ。

文科省の指針は「在校等時間」を「外形的に把握できる時間」としている。 持ち帰り業務は原則として「外形的な把握が困難」という理由から、在校等時間の算定に含まれないケースが多い。

ただし、学校が「持ち帰り作業の時間を申告せよ」というルールを設けているなら話は別で、申告した時間は在校等時間に算入されうる。

日本労働弁護団など労働法の専門家からは「持ち帰り業務を除外すると長時間労働の実態が見えなくなる」という批判が出ており、制度的な課題として議論が続いている。 自分の学校のルールを確認することが先決だ。

詳しくは「教員の年次有給休暇 取り方と権利」でも働き方の権利をまとめているので参考にしてほしい。


自分の時間外が月45時間を超えているかの計算方法

前提:正規の勤務時間を確認する

月45時間の「上限」は、正規の勤務時間を超えた部分の合計だ。 公立学校教員の正規勤務時間は自治体によって異なるが、多くは7時間45分/日の設定だ。

週5日勤務として、月の正規勤務時間は概ね次のようになる。

  • 月20日出勤の場合:7時間45分 × 20日 = 155時間
  • 月22日出勤の場合:7時間45分 × 22日 = 170時間30分

具体例:朝7時出勤・夕18時退勤のケース

休憩が1時間取れているとして、1日の実働は10時間。 正規勤務が7時間45分なら、1日あたりの時間外は2時間15分(135分)だ。

月20日出勤すると:135分 × 20日 = 2,700分 = 45時間

ちょうど上限に張りつく計算だ。 この計算で休憩が取れていない日が混じると、それだけで45時間を超える。

変則パターンの計算

週によって出退勤時間がばらつく場合は、月単位でログを取るのが確実だ。 在校等時間を正規勤務時間の合計から引いた数字が「時間外在校等時間」になる。

多くの学校では現在、ICカードや打刻システムで在校等時間を記録している。 自分の記録にアクセスできるかどうかを確認しておくといい。 記録が見られない場合は管理職に開示を求めることができる。


上限を超えていた場合の対処3パターン

パターン1:校内の業務改善チームに持ち込む

2017年以降、多くの学校で「学校業務改善チーム」や「働き方改革推進委員会」的な組織が設置されている。 こうした場で「自分の時間外が月○時間になっている」と数字を持って話すことが、最初の一手として現実的だ。

感情的に「忙しい」と訴えるより、「在校等時間の記録上○時間になっており、指針の45時間を超えている」と事実ベースで示すほうが話が動きやすい。

担任業務・校務分掌・部活動顧問の組み合わせで業務が集中しているなら、次年度の配置変更や業務の分担を具体的に求めることができる。

パターン2:教育委員会への相談

校内で改善しない場合、教育委員会の窓口に相談するルートがある。

2025年改正後は、教育委員会に削減計画の公表義務が課されており、「月45時間を超えている学校がある」という情報は委員会側にとっても対応義務に直結する話になっている。

「個人情報を出したくない」という場合は、教職員組合経由で匿名の情報提供という形をとることもできる。

パターン3:管理職との個別交渉

最もシンプルだが、心理的ハードルが高いのがこのルートだ。

「指針上の上限を超えていることを本人として確認した。業務量の調整を検討してほしい」と記録に残る形(メール・申し出書等)で伝えると、記録として残る。

口頭だけだと「相談があった」で終わりやすい。 文書で残すことで、学校側にも「把握した」という記録が生まれる。


上限超過が常態化している場合の選択肢

選択肢1:働き方改革の流れを待つ

国として月45時間超ゼロを目標に掲げ、教育委員会にも計画公表を義務づけた。 加配教員の増員・部活動の地域移行・ICT活用による業務削減など、制度的な改善は進みつつある。

現在の学校環境がベストではないとわかっていても、「もう少し待てば変わるかもしれない」という判断は、十分ありうる選択肢だ。 特に、担任から外れた学年・専科・主任職への移行など、校内でのポジション変更が近い場合は、一定の待機も合理的だ。

部活動手当の改正動向については「部活動手当改正の実情」もあわせて読んでほしい。

選択肢2:転職を検討する

「指針が変わっても自分の学校は変わらない」「管理職との関係上、改善を求めることが難しい」という状況が続くなら、転職という選択肢を現実的に考える時期かもしれない。

教員からの転職は「年度末まで待つべきか」「いつが動き時か」という悩みが多い。 転職の時期感については「教員転職 時期・年度・年齢」で詳しく取り上げているので参考にしてほしい。

給特法全体の制度背景については「給特法改正 完全ガイド」も読んでほしい。


よくある質問

Q. 部活動顧問の時間は在校等時間にカウントされる?

A. 学校内での部活動指導時間は在校等時間にカウントされる。

部活動は超勤4項目に含まれていないため、管理職が正式に「残業を命じた」わけではない。 しかし、在校等時間の定義は「外形的に把握できる学校教育活動に関する業務の時間」であり、学校施設内で行われた部活動顧問業務はこれに含まれる。

土日の練習試合・大会引率なども、学校教育活動として把握できれば在校等時間に算入される。 自治体によっては「休日の部活動は別途申請」というルールになっているケースもある。自校のルールを確認してほしい。

Q. 在宅研修の時間は?

A. 学校が認めた「在宅研修」は勤務時間扱いだが、在校等時間には原則カウントされない。

夏季休業中に自治体が認める「在宅研修」は、勤務日として扱われる制度だ。 正規勤務時間内の業務という位置づけになるため、「時間外」にはならない。

ただし、在宅研修日に実際の勤務時間を大幅に超えて作業した場合、その超過分の扱いは自治体ルール次第だ。 持ち帰り業務と同様に「外形的把握が難しい」として時間外に算入されないケースが多い。

Q. 一年単位の変形労働時間制を採用している学校では上限が変わる?

A. 月45時間の上限は変形労働時間制を採用していても変わらない。

変形労働時間制は1日・1週の所定勤務時間を繁忙期に伸ばす制度であって、時間外の上限指針を変更するものではない。

繁忙期の月に「変形だから50時間でも上限内」という解釈は成立しない。 制度導入の有無にかかわらず、時間外在校等時間は月45時間以内が指針の基準だ。


現状を数字で把握することが出発点

月45時間上限という制度は、以下の3点をセットで頭に入れておくことで実務的に使える。

  1. カウント対象:超勤4項目以外も含む在校等時間全体(持ち帰り業務は原則除外)
  2. 根拠:2019年ガイドライン→2020年改正給特法→2025年改正・新指針で段階的に強化
  3. 超えた場合:校内改善チーム→教育委員会相談→管理職交渉の3段階で動く

「月45時間」という数字を知らないまま、毎月60〜70時間を「仕方ない」で過ごすのと、知った上でどう使うかを考えるのでは、現実的な選択肢の幅がまるで違う。

まず自分の在校等時間の記録を確認することから始めてほしい。 記録が開示されていないなら、それ自体が最初に動くべきポイントだ。


転職も選択肢に入れて動くなら

「上限を超えていて、校内や委員会への相談も難しい状況」が続いているなら、教育業界に強い転職エージェントへの相談は早めに動いた方がいい。

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本記事は元小学校教員としての経験と、文部科学省指針・改正給特法等の公開情報をもとに執筆しています。個別の勤務時間管理・労働条件に関する最終判断は、所轄の教育委員会または社会保険労務士にご相談ください。記事内の制度情報は2026年5月現在のものです。