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結論から言う。 公立→私学の転職は、学校によって年収が大幅に上がることも、下がることもある。 「私学=高給」という思い込みは危険だ。

「私立に転職したら給料上がるって聞いたけど、実際どうなんだろう」 「退職金や福利厚生はどう変わる?」

こういう疑問を持ちながら、なかなか調べきれずにいる教員は多い。

この記事では、公立教員の給与体系と私学の実態を数字で比較する。 転職を検討している段階で「何を確認すればいいか」が分かるように整理した。

転職全体の進め方は教員転職の完全ガイドに譲る。 ここでは「給与・賞与・退職金・福利厚生の比較」に絞って解説する。


公立教員の給与構造をまず把握する

比較の前提として、公立教員の給与体系を整理しておく。

公立学校教員の給与は「学校教育職俸給表」に基づいて決まる。 都道府県によって若干異なるが、基本的な構造は共通だ。

公立教員の基本給(俸給)の目安

経験年数 基本給の目安
初任(大卒22歳) 約221,600円〜231,000円
5年目(27歳) 約250,000円前後
10年目(32歳) 約285,000円〜300,000円
20年目(42歳) 約340,000円〜370,000円
定年前後(60歳) 約390,000円〜420,000円

※都道府県・学歴・担任手当等の加算によって変動する。

公立教員の年収推移(諸手当・賞与込み)

年齢 年収の目安
20代後半 350〜430万円
30代前半 450〜520万円
30代後半 500〜580万円
40代前半 580〜650万円
40代後半〜50代 650〜780万円

※参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」及び各都道府県人事委員会データより。

公立教員の賞与(ボーナス)は年間4.5ヶ月分程度が相場だ。 2024年度は人事院勧告を受けて4.50ヶ月に。 基本給が290,000円の教員なら、年間賞与は約130万円前後になる計算だ。


私立教員の給与実態

私立学校の給与は「各学校法人が独自に設定した給与規程」による。 公立のように統一された俸給表は存在しない。

これが比較を難しくしている最大の要因だ。

私立教員の初任〜10年目の年収分布

文部科学省「私立学校教職員の給与等実態調査」や各種転職情報をもとにした目安を示す。

経験年数 私学の年収レンジ 公立との差
初任(大卒22歳) 350〜500万円 -60〜+70万円
5年目 400〜600万円 -50〜+120万円
10年目 450〜750万円 -80〜+200万円

このレンジの幅が全てを物語っている。

難関進学校・有名私学の場合、年収700〜900万円台に到達する学校がある。 一方、経営が厳しい小規模校では年収350〜420万円にとどまる例もある。

私学の給与は「どの学校か」で決まる。 「私学に転職する」という一言でまとめられる話ではない。

私立教員の賞与事情

公立は法律的な基準(人事院勧告)に沿って全国ほぼ一律で動く。 私学はそれがない。

年間賞与が「6ヶ月以上」の私学もあれば、 「業績連動で変動する」「公立より少ない2〜3ヶ月分」という学校も存在する。

転職前に必ず確認すべきポイント:

  • 直近3年間の賞与支給実績
  • 固定か変動か
  • 学校法人の財務状況(開示されている場合は要確認)

退職金の比較——公立 vs 私学

退職金は、「長期キャリアを考えた場合の総収入」に大きく影響する。 ここを見落として転職すると、定年前後に後悔することになる。

公立教員の退職金

公立教員の退職金は「地方公務員の退職手当」として法律・条例に基づいて算出される。

総務省データによると、公立学校教員の定年退職時の退職金平均は約2,200〜2,400万円。 勤続35年以上の場合、基本額は2,000万円を超えるケースがほとんどだ。

安定していて、計算が明確なのが公立の強みだ。

私立教員の退職金

私立教員の退職金は3つのパターンに分かれる。

パターン①: 私立学校退職金共済(私学共済)を利用している学校

  • 全国の私立学校の多くが私学共済に加入
  • 定年退職時の目安: 約1,800〜2,300万円
  • 公立と近い水準になりやすいが、学校によって掛金月額が異なる

パターン②: 学校法人独自の退職金規程

  • 大手有名私学ほど独自規程で手厚い場合がある
  • 一方、規程が不透明・変更リスクがある
  • 財務悪化時に退職金原資が不足するリスクあり

パターン③: 退職金制度がない学校

  • 小規模校・経営が厳しい学校では退職金制度が整備されていないケースがある
  • 「転職先に退職金制度があるか」は必ず事前確認が必要

退職金の比較まとめ

区分 定年退職金の目安 リスク
公立(地方公務員) 2,200〜2,400万円 ほぼなし(条例保障)
私学(私学共済加入校) 1,800〜2,300万円 掛金年数による差あり
私学(独自規程) 学校によって大差あり 経営悪化時のリスクあり
私学(制度なし) 0円 最大リスク

退職金の詳しい試算については教員の退職金はいくらで計算方法ごとに解説している。


福利厚生の比較

給与・賞与・退職金以外の「福利厚生」も、総収入に見えない形で影響する。

公立教員の福利厚生

公立教員が加入する地方公務員共済組合は、民間の社会保険より手厚い部分が多い。

医療保険(地共済)の主なメリット:

  • 高額療養費制度 + 附加給付で、1ヶ月の自己負担上限が実質25,000円程度に抑えられる
  • 標準的な組合員の場合、月の医療費が何十万円かかっても自己負担は25,000円が上限
  • 民間の保険会社で同水準の補償を買おうとすると、月数千円〜1万円超の保険料がかかる

その他:

  • 共済貯金(金利が一般金融機関より有利なケースが多い)
  • 宿泊施設・保養所の優待
  • 住宅ローン利用時の団信・金利優遇

私立教員の福利厚生

私学に転職すると、健康保険は「私学共済(日本私立学校振興・共済事業団)」か「協会けんぽ」に切り替わる。

私学共済の場合:

  • 地共済に近い水準の附加給付がある学校もある
  • ただし附加給付の条件は共済組合によって異なる
  • 全体的には地共済よりやや手薄なケースが多い

協会けんぽの場合:

  • 国の高額療養費制度のみ(附加給付なし)
  • 高額医療が発生した場合の自己負担が公立時代より増える可能性がある

保養所・宿泊施設などの福利厚生:

  • 学校法人によって大きな差がある
  • 大手私学は福利厚生が充実している場合も多い
  • 小規模校では共済的な福利厚生がほとんどない場合もある

私学転職の主なデメリット

「給与が上がる可能性」だけを見て転職するのは危険だ。 私学転職には、公立に比べて明確なデメリットがある。

デメリット①: 雇用の安定性が低い

公立教員は地方公務員として法律に守られた身分保障がある。 分限処分(懲戒以外の免職)の基準は厳しく設定されており、実質的に解雇が難しい。

私立学校の教員は「労働者」として労働基準法が適用されるが、 学校の経営悪化・方針変更・学科の廃止などによって雇用が失われるリスクがある。

実際に少子化の影響で経営が悪化し、希望退職や学科廃止に伴う雇用終了が起きている私学は存在する。

デメリット②: 労働組合の弱さ

公立教員には「日本教職員組合(日教組)」「全日本教職員連盟(全日教連)」など、 組合活動の歴史が長く、組合交渉によって労働条件が守られてきた側面がある。

私立学校の組合組織率は公立に比べて低い傾向がある。 「個人で経営陣と交渉する必要がある」「不合理な異動・業務変更に抗しにくい」というリスクがある。

デメリット③: 経営状態リスク

学校法人は毎年「財務書類」を所轄庁に提出しており、原則として公開されている。 しかし全ての情報が分かりやすく開示されているわけではなく、 転職前に学校法人の財務健全性を正確に判断するのは難しい。

少子化で生徒数が減り続けている学校、 数年以内に統廃合が検討されている地域の私学、 などは長期的な雇用リスクが高い。

デメリット④: 昇給・昇格の透明性が低い

公立は俸給表に沿って定期昇給する仕組みが明確だ。 私学は「給与規程があっても実態が不透明」なケースがある。 面接段階で聞いても正確な情報が得られないことがある。

転職エージェントを使って「給与交渉・実態確認」のサポートを受けるのが有効だ。 教員転職エージェントの使い方で詳しく解説している。

デメリット⑤: 退職金・年金が不透明

前述の通り、退職金制度がない学校も存在する。 また、転職後の年金は地共済から私学共済・協会けんぽへ切り替わり、 制度の違いによる将来の年金額への影響を考慮しておく必要がある。


私学に転職すべき人・すべきでない人

以上を踏まえると、私学転職が合う人・合わない人の傾向が見えてくる。

私学転職が向いている人

  • 「この学校で、この生徒に関わりたい」という具体的な動機がある
  • 転職先の学校法人の財務・経営状態を確認できている
  • 年収が上がるか、少なくとも維持できる条件が提示されている
  • 退職金・福利厚生の差分を理解した上で納得できる
  • 公立の異動リスク(転居を伴う異動等)から解放されたい

私学転職が向いていない人

  • 「公立が嫌だから私立ならどこでもいい」という動機
  • 転職先の経営状態を確認せずに条件だけ見ている
  • 雇用安定性・退職金を最優先にしている
  • 「給料が上がる」という情報だけで転職を判断している

公立→私学の転職でよくある後悔

実際に転職した元教員の話をもとに、よくある後悔パターンを整理する。 個人を特定する情報は省いている。

「給与は上がったが、残業が格段に増えた」 私立は部活指導・保護者対応・広報活動など「公立では求められなかった業務」が加わる学校がある。 時給換算すると公立時代より低下したという声は多い。

「経営悪化で給与カット、最終的に希望退職に」 中堅校に転職後、少子化の影響で生徒数が減り続け、数年後に給与の一律カットと希望退職募集が行われた例がある。

「賞与が想定より少なく、年収が下がった」 採用面接時の「前年度賞与実績」が良い年だっただけで、転職後2〜3年で業績が悪化して賞与が激減したケース。


私学への転職を検討する前に確認すべきこと

転職を具体的に考え始めたら、以下を必ず確認してほしい。

チェックリスト

  • 学校法人の財務書類(収支計算書・貸借対照表)を確認したか
  • 直近3年間の賞与実績を聞いたか
  • 退職金制度の有無・概算額を確認したか
  • 健康保険が私学共済か協会けんぽかを確認したか
  • 雇用形態が正規か(専任か)を確認したか
  • 部活・保護者対応・広報活動など「公立以外の業務量」を確認したか
  • 生徒数の推移・学校の経営方針を確認したか

「なぜ辞めるか」の判断基準は教員の辞めどきチェックリストで整理している。

また、私学から公立への再転職の可能性も念頭に置いておいてほしい。 私学教員が公立に戻るルートについては私立から公立への転職で解説している。


50代・ベテラン教員の私学転職

年齢が上がるほど、私学転職の条件は変わってくる。

50代の私学転職については50代教員のセカンドキャリアで詳しく解説している。 退職金・年金との関係、転職のタイミング、専任ではなく非常勤という選択肢など、50代特有の論点を整理している。


まとめ

公立→私学転職の年収比較を整理すると——

給与: 私学は学校によって幅が大きい。難関私学なら公立を大きく上回る可能性があるが、 経営が厳しい学校では公立以下になることもある。

賞与: 私学は学校の裁量が大きく、業績や方針によって変動しやすい。 直近実績の確認が必須。

退職金: 公立は2,200〜2,400万円が目安で安定している。 私学は1,800万円〜と学校によって差が大きく、制度自体がない学校もある。

福利厚生: 地共済(公立)は附加給付が手厚く、医療費の自己負担が実質月25,000円程度に抑えられる。 私学は健康保険の種類によって差が出る。

雇用安定性・組合: 公立は法律による強力な身分保障がある。 私学は学校の経営状態に左右されるリスクがある。

「給与が上がるかもしれない」という期待だけで転職を判断するのは危険だ。 退職金・福利厚生・雇用安定性を含めた「生涯収入・生活の安定」で比較することが重要だ。

転職の具体的なステップ・エージェント選び・面接対策は教員転職の完全ガイドを参照してほしい。


この記事は元小学校教員が執筆。 給与・退職金のデータは公開情報をもとにした目安です。個別の転職判断は、転職エージェント・社会保険労務士等への相談をおすすめします。制度情報は2026年5月時点のものです。

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