「定年まで働けば年金はそれなりにもらえるはず」
そう思っている教員は多いが、実際にいくらもらえるか計算したことがある人は少ない。 ねんきん定期便を見ても、数字の見方がわからず引き出しに仕舞う——という話をよく聞く。
この記事では、公立学校教員の年金を「3階建ての構造」で整理し、自分で試算できる手順を具体的に説明する。
教員年金は3階建ての構造
公立学校教員の老後年金は、3つの層で構成されている。
| 階層 | 名称 | 概要 |
|---|---|---|
| 1階 | 老齢基礎年金 | 国民年金の部分。全員が原則40年加入 |
| 2階 | 老齢厚生年金 | 2015年10月以降、共済年金が統合された部分 |
| 3階 | 退職等年金給付 | 共済組合独自の上乗せ年金(旧職域加算の後継) |
民間会社員との違いは、2階・3階の部分にある。 2015年10月以前の共済年金は独自の高い給付水準を持っていたが、一元化以降は厚生年金に統合された。 ただし、2015年10月以前の加入期間に対応する「経過的職域加算額」と、一元化以降の「退職等年金給付」が3階部分として残っている。
結果として、定年まで勤めた教員の年金は「民間の厚生年金加入者より水準が高め」だが、「一元化前に比べると下がった」という状態にある。
2015年共済年金一元化以降の変化
2015年10月1日、被用者年金の一元化が実施された。 これにより、公立学校教員の年金制度は大きく変わった。
一元化前(〜2015年9月)
- 1階: 国民年金(基礎年金)
- 2階: 厚生年金相当
- 3階: 職域加算(共済独自の上乗せ)
一元化後(2015年10月〜)
- 1階: 老齢基礎年金(変化なし)
- 2階: 老齢厚生年金(民間と同じ計算式)
- 3階: 退職等年金給付(旧職域加算の後継。ただし給付水準は引き下げられた)
一元化後に加入した期間については、民間の厚生年金と同じ計算方式が適用される。 ただし、掛金率は共済組合のほうが若干高いため、受取額も民間より高めになる傾向がある。
一元化前の加入期間については「経過的職域加算額」という形で旧制度の水準が維持されている。
各層の月額目安(年収・勤続年数別)
実際にどの程度の年金が出るか、おおまかな目安を示す。
1階: 老齢基礎年金
国民年金の保険料を40年間(480ヶ月)納めた場合の満額は、月約70,600円(2026年度・令和8年度)。 教員として正規採用されている間は共済組合経由で国民年金(第2号被保険者)に加入しているため、採用から定年まで勤めれば満額かそれに近い額になる。
加入月数が40年未満の場合は比例減となる。 例えば35年(420ヶ月)の場合: 70,600円 × (420/480) ≒ 約61,800円/月。
2階: 老齢厚生年金
計算式(簡易)は次の通りだ。
**報酬比例部分 = 平均標準報酬月額 × 5.481/1000 × 2003年3月以前の加入月数
- 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 2003年4月以降の加入月数**
簡単に言うと「現役時代の平均年収」と「加入月数」に比例する。
| 平均年収 | 勤続35年 | 勤続40年 |
|---|---|---|
| 400万円 | 約7万円/月 | 約8万円/月 |
| 500万円 | 約9万円/月 | 約10万円/月 |
| 600万円 | 約11万円/月 | 約12万円/月 |
| 700万円 | 約12万円/月 | 約14万円/月 |
※老齢厚生年金のみ。老齢基礎年金は含まない。 ※ 2015年10月一元化前後で計算方式が混在するため、あくまで概算。
3階: 退職等年金給付(一元化後の加入期間分)
退職等年金給付の月額は、共済組合への加入期間と「基準利率」によって決まる。 計算が複雑なため正確な額は共済組合の試算サービスで確認するしかないが、おおまかには月1〜2万円程度の上乗せになることが多い。
また、2015年10月以前の加入期間については「経過的職域加算額」として、旧職域加算の一部が保存されている。
3層合算の月額目安
1階+2階+3階を合計すると、教員本人(単身)の年金月額の目安はおおよそ以下になる。
| 勤続年数 | 平均年収500万円 | 平均年収600万円 | 平均年収700万円 |
|---|---|---|---|
| 35年 | 約16〜18万円/月 | 約18〜20万円/月 | 約20〜22万円/月 |
| 40年 | 約18〜20万円/月 | 約20〜22万円/月 | 約22〜24万円/月 |
※退職等年金給付を月1〜2万円として含む概算。個人の年収推移・加入状況により変動する。 ※65歳受給スタートの場合。繰り上げ・繰り下げをすると増減する(詳細は教員の年金繰り上げ・繰り下げ受給を参照)。
ねんきんネットでの試算手順
自分の年金見込み額を正確に知るには、「ねんきんネット」を使うのが最も手軽だ。
ねんきんネット(日本年金機構) URL: https://www.nenkin.go.jp/n_net/
手順1: ログイン
ねんきんネットにはマイナポータルから連携してログインするのが最も簡単だ。 スマートフォンのマイナポータルアプリ→「ねんきんネット」を選択→連携認証という流れ。
マイナンバーカードがない場合は、ねんきん定期便に記載されている「お客様のアクセスキー」(17桁)でログインできる。
手順2: 年金記録の確認
ログイン後、「年金記録照会」から加入履歴を確認する。 共済組合の加入記録も反映されているか確認しておきたい。
手順3: 「かんたん試算」を使う
「年金見込み額試算」→「かんたん試算」を選ぶ。 現在の年収でこのまま60歳まで加入し続けた場合の年金見込み額が表示される。
50歳以上の人は、ねんきん定期便の数字がこれに近い値になっているはずだ。
手順4: 「詳細な試算」で受給開始年齢を変えてみる
「詳細な試算」では、60歳・65歳・70歳など受給開始年齢を変えたときの金額を比較できる。 繰り下げが自分にとって得かどうかを試算するのに使う。
なお、ねんきんネットに反映されているのは老齢基礎年金と老齢厚生年金の部分だけだ。 退職等年金給付(3階部分)はここには含まれていない。
共済組合年金試算サービスの使い方
3階部分(退職等年金給付+経過的職域加算)を確認するには、共済組合のポータルを使う。
公立学校共済組合の場合
公立学校共済組合では、組合員向けのWEBサービス「組合員マイページ」で年金の試算ができる。
アクセス方法 各都道府県の公立学校共済組合支部のウェブサイトから「組合員WEBサービス」にアクセスする。 組合員証に記載の番号と設定したパスワードでログイン。
確認できる内容
- 退職等年金給付の見込み額
- 経過的職域加算額(2015年10月以前の加入期間がある場合)
- 掛金の記録
試算するタイミング
50代になったら一度確認しておくのがベストだ。 55歳前後に各共済組合から「年金見込み額通知」が届く組合もある。 届いた場合はその数字を保存しておく。
ねんきんネット(1階+2階)と共済組合マイページ(3階)の数字を合算すると、3階建て合計の見込み額が出る。
60歳・65歳・70歳受取スタートで月額がどう変わるか
年金の受給開始を65歳より前後にずらした場合の増減を整理する。
繰り上げ(60〜64歳受給開始)
- 1ヶ月あたり0.4%の減額
- 60歳開始なら60ヶ月×0.4%=24%の減額
- 月20万円の年金が15万2,000円になる
繰り下げ(66〜75歳受給開始)
- 1ヶ月あたり0.7%の増額
- 70歳開始なら60ヶ月×0.7%=42%の増額
- 月20万円の年金が28万4,000円になる
繰り上げ・繰り下げの損益分岐点の詳細な計算は教員の年金繰り上げ・繰り下げ受給にまとめているのでそちらを参照してほしい。
ここで押さえておきたい点は、退職等年金給付(3階部分)には老齢厚生年金とは別の繰り下げルールが適用される場合があるという点だ。 詳細は所属の共済組合に確認を取ること。
60歳定年〜65歳の「空白期間」をどう埋めるか
多くの教員が直面するのが、60歳定年から65歳の年金受給開始まで5年間の収入空白だ。
この期間の主な選択肢は次の通り。
選択肢1: 再任用制度を使う
公立学校教員は定年後、65歳まで再任用(再雇用)として働き続けることができる。 給与は正規採用時より下がることが多いが、月20〜25万円程度の収入は確保できる場合が多い。 健康保険は共済組合の任意継続か、再任用後の共済継続か選択する。
選択肢2: 継続雇用・非常勤
フルタイムの再任用が難しい場合や、体力的に週3〜4日勤務にしたい場合は非常勤講師として働く選択肢もある。 年収ベースは下がるが、自由な時間が増える。
選択肢3: 私学・塾・教育関連への転身
私立学校や学習塾への転職では、共済組合から民間健保・厚生年金へ移行する。 年金の通算はできるが、残りの勤続年数によって退職金・年金への影響が出る。
選択肢4: 貯蓄・退職金・NISAからの取り崩し
収入を得る仕事をせず、退職金や積み上げた資産で65歳まで生活する選択肢。 退職金2,000万円を5年間で取り崩す場合、年間400万円・月約33万円を生活費に充てられる計算だが、資産の減り方は早い。
老後資金の全体シミュレーションは教員の老後資金シミュレーションで詳しく計算しているので参照してほしい。
受給時の税金・控除
年金を受け取ると所得税・住民税がかかる。 ただし「公的年金等控除」によって課税対象額が大幅に減る。
公的年金等控除の概要(2026年度)
| 年金受取額 | 控除額(65歳以上) |
|---|---|
| 330万円以下 | 110万円 |
| 330万〜410万円 | 受取額×25%+27.5万円 |
| 410万〜770万円 | 受取額×15%+68.5万円 |
| 770万〜1,000万円 | 受取額×5%+145.5万円 |
例えば年間240万円(月20万円)の年金を65歳以上で受け取る場合: 公的年金等控除110万円を引くと、課税対象の「雑所得」は130万円。 ここから基礎控除(48万円)・社会保険料控除等を差し引いた上で所得税が計算される。
65歳以上で年金月額20万円程度なら、実際に支払う所得税は数万円〜10万円程度になることが多い。 住民税は前年の雑所得に基づいて翌年課税される点も覚えておきたい。
退職等年金給付を年金形式で受け取る場合も、雑所得として公的年金等控除の対象になる。
退職金との関係(退職等年金給付は年金か一時金か選べる)
退職等年金給付には、受け取り方の選択肢がある。
年金形式 終身か一定期間(有期)かを選んで、毎年受け取る。 受給中は雑所得として課税(公的年金等控除が使える)。
一時金形式 退職時にまとめて受け取る。 退職所得として扱われ、退職所得控除が使える。
退職所得控除は「勤続年数×40万円(20年以下)または勤続年数×70万円(20年超)-800万円」で計算され、大きな非課税枠がある。 ただし、退職金本体と同じ年に一時金で受け取ると控除を食い合う可能性があるため、受け取り年を分けることを検討する。
どちらが得かはその人の年金総額・退職金額・他の収入によって変わる。 具体的な試算は社会保険労務士またはFPへの相談を推奨する。
まとめ: 試算→不足分の埋め方(NISA・iDeCo・継続雇用)
教員の3階建て年金を整理すると、以下の手順で自分の年金見込み額を把握できる。
ステップ1: ねんきんネット→かんたん試算で老齢基礎年金+老齢厚生年金の見込み額を確認 ステップ2: 共済組合マイページで退職等年金給付の見込み額を確認 ステップ3: ステップ1+2を合算し、65歳以降の月収入を試算 ステップ4: 月収入と生活費の差分(不足額)を確認 ステップ5: 不足分をNISA・iDeCo・継続雇用でどう補うか設計
定年まで働いた標準的な教員(年収600万円・勤続40年)なら、3層合計で月20〜22万円程度が目安だ。 夫婦2人・持ち家ベースの月支出21〜22万円と比べると、ほぼとんとんか小さな黒字になる可能性がある。
ただし、医療費・介護費・インフレが重なると不足が生じる。 その不足分の手当として、NISA・iDeCoを50代から積み上げておくことが有効だ。
NISAを50代から設計する方法は50代教員はNISAをいつから・どう始めるべきかにまとめている。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の年金相談ではありません。 年金受給額は加入期間・年収・受給開始時期等によって個人差があります。 具体的な試算・手続きは日本年金機構・共済組合・社会保険労務士・FPにご相談ください。 掲載情報は執筆時点(2026年5月)のものです。制度改正により変更される場合があります。
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この記事は元小学校教員が執筆。